苦節10年の売れないお笑いコンビにみる「夢のあきらめ時」とは?

小説・エッセイ

2013/2/20

芸人交換日記

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 太田出版
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:鈴木おさむ 価格:540円

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「夢をあきらめないで!」とは誰もが無責任に言うけれど、その反対の「夢はもういい!」というひとことは、親でもない限りそうは言ってもらえない。あくまで、自分自身が潮時や限界を察知して認識するしかないものでありながら、実際、うまく通過できずにこじらせている人もたくさんいたりもするわけで、「夢のあきらめ時」というのは人生の節目としてかなり重大だし勇気がいる。本書は、売れないまま芸歴10年を数えるお笑いコンビが、再起をかけて挑んだ日々を通じて、「夢のあきらめ時」というシビアな現実を笑いと涙とでリアルに描いたユニークな青春小説だ。

おもしろいのは、本書が全編、お笑いコンビの2人による「交換日記」のスタイルで書かれていること。周囲の状況や2人に起きたことも含め、すべて日記の文章だけで伝わるし、どこかのぞき見しているような感覚もあって、妙に生々しい。実際、交換日記というのは、お互いをよりよく知るために、いつもより踏み込んで思いを伝えるためにとても有効な手段だし、手紙ほどよそよそしくなく、ノートを渡すタイミングや文章の長短、文字の雰囲気などで、そこに書かれている文章以上の何かも伝わる。そのあたりの呼吸が絶妙で、まるで実話のように思えてくるほど(実は著者本人が奥さんと交換日記をしていることがこのスタイルで書く着想の原点になったとか。超納得)。

なお本書の主人公は芸人だが、実はミュージシャンとか役者とか、メジャーとインディーズが存在する芸能の分野においては、どこか共通する物語かもしれない。芸能を趣味ではなく生業としようとした時には、インディーズという夢をおいかけるステージにおいて、上(メジャー)に行くのか、とどまるのか、おりるのか、常に問われ続けるのだ。表には出さなくても、彼らが抱えるヒリヒリした焦燥感、それもまた「青春」というひとつの形なのかも。本書ではその青春にひとつの「ピリオド」が打たれるわけで、そのほろ苦さもまた味わい深い。

ちなみに本書の前書きには「芸人の世界では売れなくても何十年も続けている人もいる」ということで、「青春」というのには多少語弊があるかも。だがしかし、そうまでして続ける「芸人」の世界には独得の魅力があるということだし、本書でそうした熱情の一端を垣間みられるのは実に興味深い体験だ。


目次より  電子版のみスピンオフ小説が楽しめる

前書きより1

前書きより2

本文より