理想の家を建てるプロセスを全公開

更新日:2015/9/29

ぼくの住まい論

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 新潮社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:内田樹 価格:1,210円

※最新の価格はストアでご確認ください。

むかし、亡くなった井上ひさしさんに仕事場の理想的なあり方のお話を伺ったことがあります。それは「仕事場」というより、ある「場所」のことでした。

広めの「仕事場」と、その横にこじんまりした「劇場」がついている。

advertisement

昼前に、作家や演出家や俳優たちが三々五々集まってくる。お昼になると、新聞をみんなで読んでドラマになりそうな事件や、政治・経済面の出来事や、ばかばかしい話の中からその日のお芝居のテーマになりそうなトピックを選ぶ。

それから、みんなでああでもないこうでもないと意見を出し合って、批評性のある1本の短い劇、あるいは楽しく笑えるコントを作り上げる。夕方から稽古してそれを夜に上演する。

繰り返すと、これは、作家が部屋に閉じこもってうんうん言いながらひとりで書き上げる作品ではなくて、集団で創作するための理想の「場」のお話です。

本書の著者・内田樹もこれとほぼ同じ発想をもって「我が家」を作りました。この本にはその全課程と家に対する考え方が、ひとつの「開放感」を漂わせながら綴られています。

「我が家」といいましたが、正確には「道場」です。75畳の道場が1階にあり、2階に書斎とリビングがある。これが家全体の4分の3を占める。そういう家を建てるのです。

合気道の数十人の弟子を抱える彼は、土地を私物化するなんて間違っているという考えをもっていて、家なんか建てたくないとずっと思ってきました。ところが「道場」をもつことは、まるっきり別だと思っていたのです。「道場」はみんなが集う「場」だからです。

「場」に触れることによって、人は清涼感のようなものを味わうことができるし、他者と交遊することもできる。そんな「場」を内田は作るのです。せっかく作るならこだわったものを作りたい。その願いに突き動かされ、土地を買い、木を選び、間取りを決め、現場で働く職人を求め、次第次第に計画を進めていくのです。

たとえ私たちに真似はできないとしても、内田の建築プロセスをシミュレートすることで、「家」に対する考え方は変わってくることでしょう。いま家を建てようとしている人、将来一戸建てを建てたいと願っている人に、きっと大きな参考となるに違いありません。