木嶋佳苗という不可解きわまりない存在の正体を追う

2013/3/1

毒婦。 木嶋佳苗 100日裁判傍聴記

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 朝日新聞出版
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著者名:北原みのり 価格:907円

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木嶋佳苗事件の100日の公判を追ったルポルタージュである。この事件がうろ覚えになってしまった読者もいるかもしれないのでざっと書いておこう。

逮捕当時34歳だった木嶋は、ネットなどを通じて複数の男性と次々知り合い、高額の金銭を受け取った。受け取るまでの日にちは驚くほど短かったばかりか、ほどなくその男性たちが不審な死を遂げていることが判明する。結婚詐欺と殺人の容疑で木嶋は逮捕された。

この事件を受けてマスコミなどが色めき立ったのは、木嶋の容姿が大いに太り気味であり、顔かたちも世間的な美麗の意識からかなり離れていたからであり、「なぜこの女が…」という三面記事的興味をそそったのであった。

それに加え、被害者の男性たちがみな、高齢にもかかわらず女性とほとんどつきあったことのない男性ばかりだったため、メディアの火にはますます油が注がれることとなった。

本書に書かれていいることは3つである。
1.事件のあらまし
2.公判の模様
3.著者が見た木嶋の素顔

著者はこういう。
「ただ私は、木嶋早苗という女が、全く全く全く、分からなかった」
その分からなさが著者を100日の裁判傍聴に駆り立てたのだ。

木嶋は、回ごとに服をかえ、化粧を施し、髪型を整える。小柄で美肌で声が麗しい。被告席で他人事のようなたたずまいをみせ、感情的になりがちな検察側をさらりといなしたりもする。著者はますます木嶋の正体が見えなくなってくるのだ。

裁判によって明かされる事件の経緯によると、木嶋は男性たちに手料理を作り、のっけから「本気で思って下さるなら交際期間中も避妊しなくても構いません」と持ち出し、その裏で飲み物に大量の睡眠導入剤を混ぜていたといわれている。にもかかわらず彼女の言動には、凄惨な暴力の匂いも女の犯罪につきものの粘度のようなものも、一切ない。だからおなじ女として著者には共感も同情もするよすがの持ちようがない。

目撃者も自白もないまま、裁判長は判決文でこう述べた「朝起きて一面雪化粧だったら、直接雪が降った場面は見ていなくても、みなさんは夜中に雪が降ったということがわかります」。判決は死刑であった。木嶋が有罪であるか否かとは別に、この程度の判断でひとりの人間に死刑が求刑されていいのかどうかという大きな問題が横たわっている。

『毒婦』というタイトルは、木嶋の素顔を言い当てた感がある。だが実際にはそうでない。本書を読む限り、毒婦のひとことで片付けられるような存在では木嶋は決してない。著者はおそらく『毒婦』と名づけることでなにか忌まわしいものの方へ引きずり込まれないように免疫をうったのだと私には思えて仕方がない。あるいは護符を張ったのだ。この正体不明の不気味なものがもう一度身の回りによみがえってこないように。

木嶋は判決後すぐに控訴している。