引き際、去り際、別れ際…、「際」で人は試される。「際」に見る人間論

小説・エッセイ

公開日:2013/3/3

引き際の美学

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 朝日新聞出版
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:川北義則 価格:540円

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条例改正による退職金引き下げを前に、駆け込み退職した教師や自治体職員の身の振り方が話題になった。その理由は、公に奉仕する立場にあったはずの彼らの辞め方が、責任をまっとうせず、お金につられて職場を途中で投げ出したような、一般的な感情からはずれた引き際に映ったからだろう。では、人の引き際はどうあるべきか。本書は、それを考えさせてくれる1冊。「人のふり見て、我がふり直せ」「言うは簡単、行うはむずかしい」。他人はどうあれ、自分の引き際の一助に。

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著者は本書を著す動機のひとつに、最近の日本人の引き際のみっともなさをあげている。「議員を辞めるといったん口に出したのに、それを否定して居座ってみたり、とても社長といわれる器ではないのに、そこにいつまでもしがみつくなど」。その理由は「我欲」としている(「はじめに」から)。

全体のおもな内容は、ビジネスでの引き際、男と女の引き際、そして人生の引き際(今際の際)の3つ。戦国武将や幕末の志士、経済人、政治家、芸術家、スポーツ人、職人など、いろいろな分野で活躍した人の「引き際」に関するエピソードが登場。日本と韓国、中国との引き際比較、戦争の引き際、株売買の引き際にも触れている。

ビジネスでの引き際は、転勤や退職、転職だけに限らない。会議終了後の別れ際、営業先での別れ際と、ビジネスでの別れ際は、実は日常的にあって、それをないがしろにしがちではと問う。このような別れ際での気配り、礼節こそ大切で、退職、転職を含め次につながる別れ際をしてほしいと著者はいう。

男女や人生との引き際はいうまでもなく、去り際、散り際、別れ際、窓際、瀬戸際、土俵際と、「際」はとかく人の本性がむきだしになるところ。だからこそだれもが自分の美学にそった納得できる引き際をと願う。

しかし、強力な磁場のように人を誘惑し、それを邪魔するものがある。「金」「異性」「名誉」だ。本書はこれを引き際の美学を損ない、妨げる「三要素」とする。「我欲」の中味だ。駆け込み退職は「金」だった。引き際は人を試す。「始めるは簡単、終わるはむずかしい」。本書はいろいろな終わり、別れ際の「際」に見る人間論でもある。


目次(第1章 引き際は美しくあれの部分)

戦国武将、政治家、経済人、スポーツ人など、さまざまな引き際が紹介されている(第1章から)

男女間の引き際上手、その三条件は①しつこくない、②否定的にならない、③怒らない(第4章 男と女の別れ際から)。この具体的な中味は本書で

「孤独死」は人生とのさびしい別れ際だろうか。「孤独死」ではなく「自立死」と呼ぶべきと提言している(第5章 今際の際、人生の幕引きから)
(C)川北義則/朝日新聞出版