今月のプラチナ本 2013年4月号『想像ラジオ』 いとうせいこう

今月のプラチナ本

公開日:2013/3/6

想像ラジオ

ハード : 発売元 : 河出書房新社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:いとうせいこう 価格:1,512円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『想像ラジオ』 いとうせいこう

●あらすじ●

海沿いの小さな町で、なぜか高い杉の木のてっぺんに引っかかっているというDJ(ディスク・ジョッキー)アーク。彼がパーソナリティをつとめる『想像ラジオ』は、「想像」という電波を使って「あなたの想像力の中だけ」で聞こえるラジオ番組。リスナーから次々と届くメールを軽快に読み上げるアークだが、どうして自分がひとりで木の上にいるのか、なぜリスナーから次々とメールが届くのか状況はつかめないまま。そして彼には、どうしても聞きたい、ひとつの〈声〉があった……。ヒロシマ、ナガサキ、トウキョウ、コウベ、トウホク── 生者と死者の新たな関係を描いた、いとうせいこう16年ぶりの新作小説がついに刊行!

いとう・せいこう●1961年東京都生まれ。作家、クリエイター。早稲田大学法学部卒業後、出版社の編集を経て、音楽や舞台、テレビなどの分野でも活躍。
88年に小説『ノーライフキング』でデビュー。99年に『ボタニカル・ライフ』で第15回講談社エッセイ賞受賞。他の著書に『ワールズ・エンド・ガーデン』、『ゴドーは待たれながら』(戯曲)、『文芸漫談』(奥泉光との共著。後に文庫化にあたり『小説の聖典』と改題)、『Back 2 Back』(佐々木中との共著)などがある。

河出書房新社 1470円
写真=首藤幹夫 
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編集部寸評

「必読」と言い切れる作品

昨年、弊誌の連載「映画を生む本棚」で、神山健治監督がいとうさんの小説デビュー作『ノーライフキング』を紹介してくださった。「映画の企画を立てるたびに読み返す」とおっしゃっていて、そんなに奥行きのある小説なのかとあらためて意識した。十数年ぶりに読み返した『ノーライフキング』は、預言めいた抽象性と真実味を備えており、今さらながら興奮した。だから「想像ラジオ 16年の沈黙を破る中篇小説」と表紙に書かれた『文藝』(2013年春季号)を書店で見たとき、即座に手が伸びた。その晩に読み切って、背筋がゾクゾクした。死者の声を想像する。今われわれにいちばん必要で、でもなされていない行為を、ずばりと突きつけられた。「今」といっても、本作は震災で亡くなった人に限定されていないし、もっと言えば生者とのコミュニケーションにも想像の力は必要なのだと思う。ものすごく重大な作品なのに、非常に読みやすいことにも驚かされた。

関口靖彦本誌編集長。死について、そして死者について考えることは本当にむずかしい。これからも、折に触れて本作を読み返すことになりそうです

なるべくまっさらな状態で

3・11から2年、東京に暮らす私たちには震災まえとほぼ変わらない日常が戻ってきたが、心の中には大きなシコリが残っているように感じていた。被災していない私たちにできるのは寄付だけなのだろうか。弊誌11年8月号で「無力感を祈りに変えて」という震災特集を組んだが、『想像ラジオ』を読んだとき、当時はまだ言葉にできなかったさまざまな思いがこの小説の中に集約されているような気がした。“耳を済ませば、聞こえるはず”というストレートなメッセージは、それが誰であろうと聞く意志さえ持っていれば、彼らの声は聞こえるのだという力強さに満ちている。本書についてのコメントを書くとき、どんな言葉をもって、自分の感慨を伝えればいいのか、すごく迷った。個人的な喪失の経験に対して手を差し伸べられたような安堵感があったことは事実だが、なるべくまっさらの状態で本書は読むべきだとし、著者自身もきっとそれを望んでいることと思う。

稲子美砂「本を贈る」特集では、創刊以来最多の方に取材やご寄稿のご協力をいただきました。ありがとうございました。「手放したくない本」のプレゼント、ぜひ応募ください

いとうせいこう版「死者の書」

死者がしゃべりまくる物語……怪談担当の私でも、あまり目にしない形式の小説である。DJアークはテンポよく話し(DJだけに)、ほかの亡くなったであろう人々からの実況中継を、入念にセレクトされた“お別れの曲”と共に(ためらいもなく)放送する。放射能の汚染区域ゆえに救助不可能になったDJアーク本人に、父親は“兄は一足先にあっち側へ行ってるぞ”といいに来る……こう書くと、この小説はオカルトなのかスピリチュアルなのかと思う人もいるだろう。しかし、そのいずれでもないのだ。生きているであろう妻と息子への愛の懺悔でもあり、震災で亡くなった方々への鎮魂でもあるし、生と死がつながっているという世界観の提示でもある。私は被災者たち、愛するかけがえのないものを失った人々が、物語のどこに感じ入ったのかを知りたい。いとうせいこうさんの直球勝負の救済の物語が、どのように届くのかを見届けてみたい。

岸本亜紀3/1(金)~3/20(水)MF文庫ダ・ヴィンチ 怪談サイン本フェア開催中。書泉グランデ4階。Mei(冥)2号(4/19発売)準備中。特集はトーベ・ヤンソンです。

心の奥の深い傷を想像力が癒す

生き残った人間には罪悪感が積もっていく。だから“すべきこと”を求めて躍起になったり、それをできない自分に悶々としたり、そこから逃れるように無関心を装ったり、する。本書には、これまでに多くの人が誰かと、あるいは心の中で交わしたであろう言葉や会話が多く出てくる。なかでも刺さったのは「あなたは感受性だけ強くて想像力が足りない人なのかな?」ある死者が語った言葉だ。大切な誰かを失ってすぐは、何を見ても、何をしても、あの人がいないということに打ちひしがれて途方にくれてしまう。風が吹くだけで沁みるような生々しい傷に耐える時期を経て、残った傷跡を見ると、そこに生きて、動いているあの人のことを思い出すようになる。やがて、迷ったときには、こんなとき、あの人だったらどう言う? どうする? と必死に考えて行動するようになる。だから、今日も私は、彼の、彼女の姿を想像する。日々に心を尽くして生きるために。

服部美穂石井光太原作の映画『遺体』を観た。皆に観てほしい映画。いま観ることができて本当によかった。3/1発売内田×名越×橋口鼎談本『本当の大人の作法』もぜひ

想像してみよう

あれから、まだ2年しか経っていない。あるいは、もう2年も経った。被災地以外の人々は、あの出来事をどれほど想像できるだろう。編集者、そして日本語ラップのオリジネーターである著者は、常にメッセージを送り続けてきた。しかしすべては、受け手のチューニング次第だ。できれば世界中のみんなに、『想像ラジオ』を受信してほしい。私も現在受信中です。今だから、でもいいと思う。あちらとこちらを繋げるDJアークの言葉に耳を澄まし、感じ続けてゆきたい。

似田貝大介3・11刊行の大怪獣競作集『怪獣文藝』に収録される、夢枕獏さんと樋口真嗣さんによる対談の一部を、今月の「怪談通信」で公開中

忘れないためにも

未曾有の出来事に喪失感を抱き、自分の無力さを感じたあの日から2年。日本に起こった悲しい記憶を遡ったとき、私たちの傍にはいつもラジオがあったことを思い出した。戦後の娯楽を支え、パーソナリティとリスナーを繋いできたラジオ。あの日、伝えられた数々の声が、『想像ラジオ』を通じて再びリアルに響いてきた。耳を澄まし聞こえてきた声は力強くて温かくて、やっぱり切なかった。だがきっと、今後何度も読み返すことになるだろう。素晴らしい小説に出会えた。

重信裕加今月号でご紹介している高橋久美子さんの初のエッセイ集『思いつつ、嘆きつつ、走りつつ、』、楽しく読ませてもらいました

つながる電波、そして人

ラジオが持つ“つながる”力を存分に発揮させた小説だった。内容はもちろん主人公“DJアーク”たちの物語。ただ、彼らの物語を読みながら、あの日朝まで閑散とした編集部で待機していた自分、メディアから伝わる状況を泣きそうになりながら見守っていた自分のことを鮮明に思い出していた。苦しくつらい思いをした人たちに想像ラジオが届いていたら……。その物語は、あの日祈ることしかできなくて、でも全力で祈っていたたくさんの人にとって救いとなるはずだ。

鎌野静華震災後初めてのオードリーのオールナイトニッポン。番組冒頭で流れた新作漫才にどれほどの笑いと安心をもらったか思い出した

耳を澄まして

悲しみも、やるせなさも、笑いたくなる明るさも、光も混ざった物語。「想ー像ーラジオー」読んだ人の頭の中ではきっと、それぞれの形でジングルが鳴る。繰り返されるそれは、別物であるはずなのに共有される。死者の声を聞けるのか、死者と生者は交流できるのか――可能か不可能かじゃない、耳を澄まして、想像しよう。あるかもしれない声を想おう。聞こえなくても、想像することが、世界を作る。沸き起こる言葉とそれを下支えする沈黙が作る新たな次元がここにはあった。

岩橋真実次号の特集の取材で、作家の有川浩さんにご案内いただく高知スペシャルツアーに。山・海・川・空の自然と食べ物が素晴らしい!

ラジオが選ばれたことの意味

最近ラジオ絡みの雑誌記事が目に付くなと思っていたところに、いとうせいこうさん。これは一つの流れだと本作を手にとった。リズミカルな口語の文体がするすると入ってきて、気づくと作品世界に包み込まれているような感覚が気持ちいい。ラジオに親しんだ読者は猥雑かつディープなノリに心地よさを感じるはず。そうして読み進めると物語の核心が見えてくる。「耳を傾けよ」というメッセージだ。プライベートでも仕事でも、想像することを放棄しがちな自分を猛省。

川戸崇央宇野常寛さん監修『文化時評アーカイブス』が3月15日に発売予定。本だけでなく映像回りも総ざらいするバイイングガイド!

耳を傾ける、その想像力を

誰も居ない中、陽気な声が流れてくる「ラジオ」を聴くと、想像力が膨らみ、いつも心がざわつく。『想像ラジオ』では、最初から最後まで強いメッセージが、文字を介して耳に聴こえてくるようだった。心はやはりずっとざわついていて、いつしか涙がこぼれた。「死者と共にこの国を作り直して行くしかないのに、まるで何もなかったように事態にフタをしていく僕らはなんなんだ」。想像力がなければ、人は人を想えない。ぜひ沢山の方に読んで欲しい。想像力を持って。

村井有紀子4月に大泉洋さんのエッセイ集が発売決定! さらに次号では大泉洋特集も。あだち充先生との奇跡の対談をぜひ

ライトな語り口が胸に迫る

読者と著者の頭のなかで共有される“ラジオ番組”の「想ー像ーラジオー。」のジングルが読後繰り返し耳に響いていた気がする。高い杉の枝に引っかかった男が脳内でDJとなって語るラジオ。どこからか投稿されてくる読者の声。あっちこっちに飛ぶ、DJの思い出語り。軽くて楽しいおしゃべりの背景に気がついたとき、読者はきっと立ちすくんでしまう。だけど、おしゃべりは止まない。ページをめくる手も止まらない。まさに流れるラジオのような一冊。

亀田早希『怪談実話系/魔』『怪談実話コロシアム 阿鼻叫喚の開幕篇』が絶賛発売中。両方とも、著者の皆様渾身の怖いお話満載です!

過去のプラチナ本が収録された本棚はコチラ

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