世界のリアルがよくわかる。近未来を生き抜くための指南書

更新日:2013/3/10

企業が「帝国化」する アップル、マクドナルド、エクソン~新しい統治者たちの素顔

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:BOOK☆WALKER
著者名:松井博 価格:800円

※最新の価格はストアでご確認ください。

1992年から2009年までアップルの本社に勤務し、退職時はシニアマネージャーであった著者は、どちらかといえばマニア向けのコンピュータ会社で赤字経営だったアップルがiPodの開発以降、業界を牛耳る優良企業になった過程を目の当たりにしている。その実体験から、一人勝ち企業がいかにして生まれ、寡占状態を維持し、私たちの生活に影響を及ぼしているかを分析する。ヨーロッパの中堅国のGDPにも相当する売上高を誇るような巨大企業を著者は「私設帝国」と呼び、以下のように定義する。

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1.ビジネスの在り方を変えてしまう
2.顧客を「餌付け」する強力な仕組みを持つ
3.業界の食物連鎖の頂点に君臨し、巨大な影響力を持つ

例えばアップルの場合は、iPodのブレイクにより音楽をCDではなくダウンロードで購入するものに変え、製品の互換性を驚くほどスムースにすることで顧客を囲い込む。本社でデザインされた製品は下請けの中国企業が製造し、部品は日本の27社を含む世界156社より調達される。

著者が他業種の「帝国」として例に挙げるマクドナルドやエクソン、グーグルも、ほとんど同じような仕組みで運営されている。その内情は、著者自身が「(儲けのことしか考えていなくて)いっそすがすがしい」「搾取の上に成り立っている」と書く通り、黒い事実のオンパレードである。

例えばアップルの下請けの中国企業フォックスコンでは、あまりの過酷さに社員が自殺しないよう防止ネットが張られているなど。エクソンに関する記述では、あのナイジェリアの人質殺害事件を想起されるに違いない(実際、阿漕な仕組みがよくわかる!)。

『フード・インク』や『ザ・コーポレーション』といったドキュメンタリー映画を観たり、海外ニュースに触れていればある程度知られた情報ではあるが、ニュース情報源はYahooのトピックスだけ、というようなナイーブな読者は厭世的な気分に陥るかもしれない。

しかし、黒い事実だけで終わらず、では「帝国」の影響下にある世界をどのように生き抜いて行くべきか、という提言があるのがこの本の素晴らしいところだ。どちらにしても、世界の事実を知らずのうのうと生きて行ける時代はもう終わっているのだから。

ところでBOOK☆WALKERは時計・バッテリー・アンテナの表示が表示されている仕組みで大変読みやすかった。しかしアスキー新書としてネットの参考文献などが参照されているのであれば、そこに直接アクセスできるような仕掛けにしてあればなおよいのではないかと感じた。紙の書籍と比較して操作性を高めて行くには携帯性以外の利便性にも目を向ける必要があるのではないだろうか。


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著者は巨大な私設帝国下で生きて行くにはPCには真似できない「創造性」のほか付和雷同せず自分なりに考えることの重要性を説く