今月のプラチナ本 2011年9月号『畦と銃』 真藤順丈

今月のプラチナ本

更新日:2012/2/6

畦と銃

ハード : 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:真藤順丈 価格:1,680円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『畦と銃』

●あらすじ●

ミナギの雄として農夫たちの信頼を集めてきた三喜男と、代々村を牛耳る悪徳地権者・小手川家の息子クニミツ。三喜男の弟子である大助と幼なじみの惣は、ある日とある事件をきっかけに、長年対立してきたクニミツに襲撃をかける(第一部「拳銃と農夫」)。第一次産業の村・ミナギを舞台に、“最強の農夫”、“樹上で叫ぶ少女”(第二部・「第二次間伐戦争」)、“絆で結ばれた牧童たち”( 第三部「ガウチョ防衛線」)が、破壊された農地、山林、牧場を再生すべく蜂起する! 気鋭の作家・真藤順丈が贈る、話題沸騰のハードボイルド第一次産業小説!!

1977年、東京生まれ。2008年、『地図男』で第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞してデビュー。同賞を皮切りに、『庵堂三兄弟の聖職』で第15回日本ホラー小説大賞大賞、『RANK』で第3回ポプラ小説大賞特別賞、『東京ヴァンパイア・ファイナンス』で第15回電撃小説大賞銀賞を受賞と、08年の新人文学賞4冠を達成。近刊に『地図男』に続く書物シリーズ第2弾『バイブルDX(デラックス)』など。

『畦と銃』
講談社 1680円
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

真藤順丈は、宮崎駿であり原田芳雄である。

カッコイイとは、こういうことさ。と名コピーを映画『紅の豚』に冠したのは、かの糸井重里さんだった。この宮崎アニメにあって異色のハードボイルド映画の主人公、飛行機乗りの豚ポルコ・ロッソは最高にイカしていた。『畦と銃』を読みながら何度もそのことを思い出した。僕たちが今まで、あまりカッコイイとは思わなかった(すみません!)、第一次産業に従事するオヤジたちが本書の中では躍動し、いぶし銀の輝きを発する。何人ものポルコ・ロッソがそこにいた。ああ本当は、土や樹木や家畜にまみれたオヤジたちってこんなにも破壊的で創造的で美しかったんだと目が覚める。もし映画化されるとしたら三喜男役は土の匂いのする名優、原田芳雄さんにやってほしかった。それがもはや叶わないことが、ひたすら悲しい。彼が本書を読んだらきっとこう言ったに違いない。「やるじゃねえか。俺が出た映画や『大鹿村騒動記』で叫んでたのはこういうことさ」と。

横里 隆 本誌ご隠居兼編集人。ダ・ヴィンチ電子部= http://blog.mediafactory.co.jp/dd/ が8月下旬に「ダ・ヴィンチ電子ナビ」として大きく生まれ変わります! 内容も大充実! ぜひお越しください?

この文体は、爆音ロックンロール

真藤順丈の小説は、ストーリーも面白いし、キャラクターも立っている。だがもっとも激しく読者の心を揺さぶるのは、その文体である。ただ“読みやすい”のとはちがう。むしろ、あちこちに“引っかかり”が仕込まれている。極端な方言や専門用語、独特の擬音などは、巷の小説講座ならば添削されてしまうだろう。だがそれらの引っかかりこそが読者の目をとらえて離さず、疾走感あふれる文章に引きずり込む。あとはそのビートに乗っかって、目くるめく物語に突入するだけだ。音楽でいえば、誰もが軽快なノリを楽しめるポップスではなく、爆音ロックンロール。うるさい、でかい、でもそのビートが体を貫き、気がついたら一緒に暴れている。だから読み終えたあと胸に残るのは、「こんな話でした」という要約なんかじゃない。圧倒的な読み心地ーー読んでいる間にしか味わえない快感の残響だ。だからわれわれは、真藤順丈の本を何度でも読み返してしまう。

関口靖彦 本誌編集長。爆音ロックンロールといえばモーターヘッド。彼らの名作ライブ盤『極悪ライブ』を、耳元でドカドカ鳴らしまくるような感じの本です

いま一番ニッポンで元気が出る小説といえば、コレ!

3・11で自然災害の非情を目の当たりにし、改めて第一次産業の過酷さを痛感した人は多いのではないか。「農村ってのはそもそもが物騒なもんだよ。日照、気温、降水量と、お天道さんの虫の居所に左右されて、あげくに台風や干ばつにみまわれて一年ぶんの仕事をぽしゃらされることもざらだっけ、そりゃあ農夫だってやさぐれる」。天災に加え、さまざまな人災も彼らを襲う。世の中の不条理に対する抗体を一番持っているのが第一次産業に従事している彼らなのかもしれない。彼らの不屈のエネルギーと、自らが現地で体感した土や緑の匂い、その熱っぽさを読者にどう伝えるかーー真藤順丈はそこに全力を傾けたのではないか。「文体」「野性的な造語」「キャラクター」「ストーリー」「構成」。きつい方言を使うことでわかりやすさよりも勢いや臨場感を優先させた。元気が出る小説が求められる昨今、作者の前のめりの姿勢も含め、多くの人に本作を薦めたい。

稲子美砂 『畦と銃』とは対極をなす作品だが、津原泰水さんの『11(eleven)』も無茶苦茶よかった。一切無駄のない美しい小説とはまさに本作のこと

真藤順丈の新境地。大傑作!

著者のデビュー作『地図男』を初めて読んだときの衝撃とワクワク感を思い出した。第一部「百姓の百ある業のひとつめ、一は一揆だっや!」というフレーズにはっとし、第二部で、「山は、ロックンロール」と語るウッドマンに魅了され、第三部のどんでん返しに驚き笑い、最後は、大自然を相手に、何度奪われても諦めない人間たちに感動した。この物語をずっと読んでいたいと思った。泥臭くて、ロマンチックで、冒険心たっぷり。やはり真藤順丈は只者ではない。

服部美穂 本誌57ページdavinci pick upで『畦と銃』真藤順丈さんインタビューも掲載。あわせてご覧ください!

再生か死か!

第一次産業に腰をすえ、大自然に囲まれてスローな人生を送っている好々爺ーーなんて幻想を、本書は容易く打ち砕く。ガバメントを持つあぜやぶり、超人的なウッドマン、ちびっこガウチョ、ミナギで暮らす彼らによる命がけの物語には、都会の住人が吐く生ぬるい言葉を軽々と飛び越える力強さがある。彼らは暴力的なまでに自然を破壊するが、それは常に再生へと繋がってゆく。さもなければ自然とともに自身の生活も失われてゆくのだから。熱い想いと覚悟にしびれる!

似田貝大介毎年この季節は怪談本を読み、イベントで聞いて、ひんやりと過ごしています。怪談専門誌『幽』1 5号も発売中

パワーみなぎる、真藤ワールド!

第一次産業とハードボイルド、この組み合わせに頭からやられた。さらに、ミナギの方言が独特のリズムをともない、加速をつけて物語は展開していく。「鍬を持て。鋤を立てろ。おれったは農民だて」と〈あぜやぶり〉の男たちが立ち上がる様に高ぶり、音楽フェス事業の進出で区画確保に熱くなる4人のウッドマンたちの、それぞれの〈感取り〉にはロマンを感じた。第三部の信子が子供たちに放つ「生きてる証拠ならいやってほどあげられる」。この言葉も、またいいのだ。

重信裕加 母がシルバー携帯を持った。三姉妹の連絡先を1~3の番号に登録したらしいが、私の電話にだけ全然出ない……

荒々しさと繊細さと

「第二次間伐戦争」に登場する“感取り”の描写がおもしろい。荒々しいウッドマンの仕事とは正反対ともとれる繊細な能力。ある人は音楽として、ある人は色彩として、ある人は数字や記号として、ある人は感情として、山のありようを捉えていく。そして、各々捉えた姿をガイドに、時間をかけて山を育てていく……。う~ん、カッコイイ。でも、自然を相手にする職人さんだったら本当にあるんじゃないか、というか、遠からずなのかもしれないなぁ、なんて思いました。

鎌野静華 今年の猛暑っぷりに音を上げて、いまさら遮光仕様の日傘を物色。す、涼しい……。企業努力に感謝です

物語の密度と引力

踊る文体から立ち上がる御薙(ミナギ)の物語。密度の高さとそこから生まれる引力がすさまじい。登場人物は皆ちょっとぶっとんでるから「共感する」というのとは少し違うけど(でも憧れる!)、眼前に繰り広げられる世界の豊穣さから離れられない。惜しげもなく詰まった物語世界をハイテンション&ハイスピードでかけぬける快感。3+1の叙事詩の巧みな絡まり具合や、練り込まれたミステリ的な要素もたまらない。痺れます。癖になるなぁ。描かれた老年世代のかっこよさも凄い!

岩橋真実 真藤さんの短編が『怪談実話系6』で読めます! 同書は道尾秀介さんも寄稿。平山夢明さん×京極夏彦さん対談も

奪われても取り返す力

御薙(ミナギ)の男たちは泥の感触を足の裏で感じ、土の鼓動を聞きながら豊穣の唄を歌う。その唄はこの本を開いている最中始終聞こえてきて魂を揺さぶり続ける。その理由はきっと、自然の美しさと表裏一体にある破壊力を著者がまっすぐ捉えているからだ。瓦礫の山となった被災地の人々も、復興のために立ち上がっている。それはあまりに過酷で不条理だ。こんなに何もかもを奪われたのになぜ立ち上がれるのか。その答えをこの物語を紡ぐ人々の生き様から探すことができた。

千葉美如 この夏、三十路に。そして辛酸なめた20代をともにすごしてきた親友がついに結婚! 心からの祝福を。おめでとう

職人(プロフェッショナル)たちの戦い、男の美学

へッドフォンをつけて畑にたつ若者。この絵が浮かんできた瞬間にぐっときた。彼はロックンロールを聞きながら畑を耕し、クラシックを聞きながら田植えをする。流れる曲と曲の無音のはざまにトク、トクという土の鼓動、泥のささやきが耳に流れ込んでくる。彼は、彼にだけ聞こえるその“音楽”がたまらなく好きなのだーーそんな風にして自然に対して人よりちょっと“敏感” な農夫たちを描いた本作。プライドほとばしるプロフェッショナルたちの戦いに刮目!。

川戸崇央 いつからかマッシュルームカットが好きだ。でも「きのこ」と呼ぶのはやめてほしい。「日村」も「六角」もだ

最初のページから面食らった

読み始めてから終始、面食らっていた。登場人物が吐く荒々しい言葉の数々に驚き、「農地=〝ほのぼの?」という安易な幻想を乱暴にぶち壊され、最後は作中の人々が織り成す不器用な直球勝負の生き様に、篤としびれさせられた。「ミナギ」という農村で繰り返される暴力、破壊……その根底にあるのはそこで生きている人々の仕事への「誇り」と「愛」。第一次産業をテーマにしたエンタテインメント作品、「身構えて読めば良かった」と思うほど衝撃的だった。

村井有紀子 映画『探偵はBARにいる』のヴィジュアルブックが8/26発売。ハードボイルドな大泉洋さんに注目を!

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