今月のプラチナ本 2010年12月号『にこたま』渡辺ペコ

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/5

にこたま(1) (モーニングKC)

ハード : 発売元 : 講談社
ジャンル:コミック 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:渡辺ペコ 価格:607円

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今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『 にこたま』(1・2巻) 渡辺ペコ

●あらすじ●

交際9年、同棲5年の浅尾温子(あっちゃん)と岩城晃平(コーヘー)。ある日、晃平は温子に、会社の同僚・高野との間に子供が出来たと告白する。一度きりのあやまちで妊娠し、シングルマザーとして生きる決断をした高野を前に、ただうろたえるばかりの晃平。大口論の末、温子と晃平は一緒に問題を解決する道を選ぶ(!?)が─。明るい家族計画、絶賛失敗中の最後の思春期、三十路直前、第三次性徴白書! 渡辺ペコが描くコドモからオトナへの綱渡り!! 現在『モーニング・ツー』にて好評連載中。

わたなべ・ぺこ●1977年、北海道生まれ。2004年、「透明少女」で、ヤングユー新人まんが大賞ゴールド賞を受賞し、デビュー。作品に『蛇にピアス』(金原ひとみ原作のコミカライズ)、『東京膜』、『ラウンダバウト』、『キナコタイフーン』(原案:はと実鶴)、『変身ものがたり』、『ペコセトラ』がある。

『にこたま』
講談社モーニングKC 各580円
写真=冨永智子
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編集部寸評

痛くて心地いい心の掘削&解放マンガ

1巻、別の女性を孕はらませたことを告白する晃平に対して温子が返す言葉がすごい。「あたしに話して共有すればもう秘密を抱えなくていいもんね。これからは〝あたしたち?の問題になって分担する人がひとり増えて、晃平は気が楽になった?」と。ペコ作品の魅力のひとつは、登場人物たちの本音が、本人ですら自覚していない深度まで掘り下げられ白日の下にさらされるところだ。それは読んでいて痛みをともなうものだけど痛快な心地よさをももたらしてくれる。そんな心の掘削作業とも言うべき展開は2巻になって更に深みを増していく。その一方でペコ作品には遥かな高みに昇華していく瞬間がある。それはこのどうしようもない世界を渡辺ペコは慈しんでいるからだろう。そもそも人は過ちを犯すものだし、世の中は綺麗事ばかりじゃない。そんな中、ふと登場人物が発する透明な言葉や場面に気持ちが解放される。掘削と解放。チリの奇蹟のようにすごいのだ!

横里 隆 本誌編集長。電子書籍の情報サイト「ダ・ヴィンチ電子部」がスタート。リアル本の情報は弊誌で、電子本の情報は電子部で。ぜひアクセスを!

切実さ全包囲の純文学マンガ

きわめてありえる現実的なストーリーなので、多くの女子は「私だったら」という仮定法で本作を読んだことと思う。あっちゃんと晃平がすごくいい感じのカップルだから、彼らを苦しめる選択をした高野さんは、結果的に「嫌な女」に見えてしまうかも(私はどちらかといえば、高野さんの立場でこの話を読んでしまうのだが)。そんな彼らを取り巻く登場人物たちは、それぞれに「今」と共生するための諦念みたいなものを抱えていておもしろいし、彼らが物語に厚みを加えているようにも感じる。ペコさんの作品は、どれも皮膚感覚というか、微妙な感情の揺れを感じさせるエピソードがうまくて、純文学のようなマンガだなあと思う。でも文章では出し得ないマンガならではの叙情性があって、その切実さに引き込まれてしまう。晃平の顔が知り合いのコウヘイ君にとても似ていて、彼の葛藤がとても人ごとのように思えない……というのも多分にあるかも。

稲子美砂 西炯子さんの連載『姉の結婚』がおもしろい。既存の不倫モノとは全く違う作品になりそうな予感。詳細は134p のインタビューにて

女子たちよ、幸せになれと願う

1巻のときから思っていたけど、2巻であっちゃんはますます大人になった。「どんなにくっついていても触れていても/別のからだとあたまとこころを持った/別の人間なんだよね/100パーセントの信頼も/100パーセントの恋心も/そんなものないんだな」というあっちゃん。その年で大人すぎだぜ! ペコさんの漫画の登場人物たちは、結婚前の恋に仕事に励む女子たちがクールに振舞っている。でもさ、本当はそんなに頑張らなくてもいいんだよ…と過ぎた世代は思うのです。でも今まさに体験している人たちには分からないこと。私も実体験としてそういう時期があって迷走していたし。どこでその空虚さを補うのかは漫画のテーマなんだろうけど、子どもが産めなくなってしまうかもしれないあっちゃんに、いつか無条件に溢れるような愛を与えてあげて欲しい、ペコさんどうかお願い!と、私は漫画を超えて、いつしか悩める女子みんなを応援したくなるのです。

岸本亜紀 産休、育休に入ります。『ゴーストハント1 旧校舎怪談』を担当しました。『うちの冷蔵庫』『もののけ物語』『女たちの怪談百物語』も同日発売

大人スイッチが見つかりません

大人になるスイッチは、どこにあるんだろう。就職しても、結婚しても、ぜんぜん大人になれない。晃平は二人の女性から問われる。高野からは「父親になりたいの?」。温子からは「晃平はどうしたいの?」。どちらも答えられない。言葉は口から出るが、それは答えではなく、バラバラな思いが漏れ出しただけだ。こうしたい、という意思は、まだ出来ていないのだから。高野と温子は、それぞれに肉体の変化にも直面し、自分はどうしたいのかを否応なく考えていく。その思考と、職場の人や家族の言葉が、さまざまに響きあう。だが晃平は、ただ立ち尽くしているように見える。そしてそれは私自身の姿に重なり、ゾクリと怖くなるのだ。思考は停滞し、仕事やら逃避やらは淡々と続け、真剣に投げかけられた言葉には型どおりの受け答えしかできない。この状態から大人へと〝変身?するスイッチはどこにあるのか? 迷いながら、何度も読み返してしまうマンガだ。

関口靖彦 こういうとき、考えなしに「男ってバカだから」みたいなことを言って、女子からブーイングを浴びること多々。まるで進歩のない私です

コーヘーが元来いい奴なだけに辛いね

現実に明日にも起こりそうな話でとても怖い。9年交際して、5年同棲していれば、病的な浮気性だったり、ひどい倦怠期じゃなくても、うっかり1回ぐらい浮気したりされたりすることも、ないとはいえない。だけど、その1回で子どもができてしまったら? 自分の体や相手の体の中で新しい生命がどんどん成長していくような事態に直面したら、お互いに対して元々あったりなかったりした気持ちなんて、簡単に変わってしまうかもしれない。全員に感情移入できるところが見事だしイタイです。

服部美穂 次号の「東京西遊記」の取材で東京タワーの蝋人形館に初めて行ったのですが、想像以上に怖くてびっくりしました。人形生きてるよね?

鮮やかに切り取られる一瞬の失態

なんでもない一場面が、鮮烈に印象に残る。セリフなんてなくとも表情や目線だけで繊細に入り混じった感情が描かれる。読み手はとにかく気が抜けない。だから、なんともない話なんだ、と自己暗示をかけておかないと、物語に締め付けられる。おっしゃる通り、男はだめなのです……。言ってはならぬこと、してはいけない態度を、しでかした後で思い至る。そして、その失態は意外に見逃されていないのだ。あっちゃんとコーへーは僕と同世代だというのだから尚更いたたまれない。三十路は青春だ。

似田貝大介 「ゴーストハント」ついに復刊です。特集内の小野不由美ロングインタビュー別ヴァージョンが『幽』14号に掲載予定。要チェック!

女の視点とオトコの視線

あっちゃんは大人だ。そしてとても健気だ。長年のパートナーが別の女性を妊娠させたのに、〝昨日まではありえなかったはずの?現実と、きちんと向き合おうとする。心も身体も、本当はしんどいはずなのに。その気持ちが、じんわりヒリヒリと伝わってくる。そしてあっちゃんをはじめ、この物語に出てくる女性は、年齢や環境の変化に戸惑いながらも、まっすぐに今を見つめようとしている。それに対し、オトコたちは……? 人が良いのはわかるけど、コーへー、だいたい目が泳ぎっぱなしです。

重信裕加 先日、交通事故にあいました。酒を飲みすぎ車道をフラフラ歩いていた私が悪いのですが、奇跡的にほぼ無傷。翌日普通に出社できました!

みんな大人になれるといいけど……

浮気で妊娠はへビィ。私は自分を一番に考えてしまう人間なので、恋人が浮気をして相手を妊娠させた、なんてなったら「命の大切さなんて関係あるか!」となりそうだ(オソロシイ)。まぁ自分の中の倫理が気になって、誕生した命をなくしてしまえとは言えないだろうけど。あっちゃんの友達の「一緒にいる大事な相手を不愉快にさせたり悲しませないっていうのはルールじゃなくてマナーとモラルだよ」というセリフ。本当にそのとおり。これができる人こそが大人と言えるんだろうなぁ。

鎌野静華 カンニング竹山さんの単独ライブ『放送禁止2010』に行きました。放送禁止にせざるを得ない内容に爆笑。やっぱ竹山さんスゴイ!

やさしいのにめちゃめちゃキツイ

あっちゃん、晃平、高野さん、みんなの気持ちが分かるし、誰も悪くないしょうがない(と思う)。「みんな幸せ」な着地点は全く見えない現状。暴くような筆致ではなくやさしく描かれるのに、キツイ。三角関係手前の二者関係×2で、両方をなるたけ誠実にフォローしようとする晃平はえらいと言えばえらい(えらさ=ダメさだけど)。割り切れない男女関係のほか「女親と娘」「わたしモテないからこうするしか」などのキツさも描き出すペコさん。連載分はますますキリキリ展開、もう目が離せません。

岩橋真実 『英国幽霊案内』刊行、『視えるんです。』伊藤三巳華さんコミックエッセイ劇場連載開始、12/17『幽』発売、寒くなっても怪談づいてます

三十路男女の思春期白書

ひとりで産んで育てるって決めた高野さんだったけど、やっぱり不安になってしまうし晃平くんはオロオロするし、あっちゃんは冷静に対処しようするけどうまくいかない。登場人物はみんな不器用で心と体が〝ヴァラッ、ヴァラ?。弱くて苦しくて痛い。だけどそこにリアルな私たちの姿がある。ひとりで生きていける人間はきっといない。だから私たちは恋人を作り夫婦になり家族を作っていくのかな。けどやっぱり、その礎石が揺らがないように浮気はしないでほしいな?と強く思うのでした。

千葉美如 今月号より仲間に加わりました。そして電子書籍を紹介するダ・ヴィンチ電子部も立ち上げました。細々ですが毎日更新しています

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