2009年12月号 『週末、森で』益田ミリ

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/6

週末、森で

ハード : 発売元 : 幻冬舎
ジャンル:コミック 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:益田ミリ 価格:1,296円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『週末、森で』

益田ミリ

●あらすじ●

思い切って、田舎の森の近くに引っ越してみた翻訳家の早川さん、出版社で経理部ひとすじ14年、「仕事ができる女」のマユミちゃん、旅行代理店で接客の仕事を始めて、少し人間がきらいになったせっちゃん。3人は友達で、みんな30代半ば、独身。「なりゆきというか まあ、ちょっとやってみるかなって」と田舎暮らしをはじめた早川さんのもとには、週末になるとマユミちゃん、せっちゃんがふらっと訪れる。お互い過度には気遣わず、それぞれのペースで、「週末、森で」過ごす彼女たち。早川さんがさらっと発したことばに、都会の生活に戻って、ふと気付かされることのある、残りのふたり。でも、それは決して押し付けがましいものじゃあない。肩肘張らない女3人の、週末とそのほかの日々を描いた「共感120%」の四コママンガ。

ますだ・みり●1969年、大阪府生まれ。イラストレーター。漫画、エッセイなど様々な形で、女性
の素直な気持ちを描く。『言えないコトバ』『ふつうな私のゆるゆる作家生活』『わたし恋をしている。』な
ど著書多数。漫画「すーちゃん」シリーズがベストセラーに。11月20日には初小説『アンナの土星』を刊行。

『週末、森で』
幻冬舎 1260円
写真=下林彩子
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編集部寸評

肩肘張らない森ライフに共感!

なだらかに広がる山の裾野が好きだ。平野から立ち上がっていく稜線のグラデーションは美しい。そこは人の住すみか処と神々の住処との境界で、森や高原が広がっている。森は社会と外界の境目なのだ。山にこもって世捨て人になるつもりはないけど、社会の中でへとへとになったときは森が痛みを鎮めてくれる。田舎暮らしを選んだ早川さんは畑を耕すわけでもナチュラルライフを志向しているわけでもない。いつ都会に戻ってもおかしくないその中途半端な感じがいい。境界上でふわふわしていてどっちにもアクセスできる。先の見えない浮世を生きる僕たちは、この社会を逸脱することなくぎりぎりの境界上に避難場所を持つことが大切だ。ときどき星空を見上げて宇宙を感じることが必要なように。寒さに震えたら部屋に戻って温まればいいから。

横里 隆 本誌編集長。ずっと八ヶ岳山麓への移住願望を持っていたので本書には大共感。カヤックやりたい! キノコ狩りしたい!

自然との距離感がいい

都心を離れて田舎暮らしをしたいと思ったことはないけれど、こんな週末ライフはいいかもしれない。近年の益田さんは、30〜40代の女性の胸に染み入る作品で人気を博してきたが、本作で読者の幅をまた広げたように思う。自然の中には、日常生活で生じる理不尽な痛みを忘れさせてくれる発見がたくさんある。それをガールズトークに盛り込んで軽やかに読ませてくれた。無理せず、できるところから田舎暮らしを取り入れている早川さんの姿勢に共感する人は多いだろう。数年前、長期入院していた友人を一時外出させて、週末ごとに東京近郊の公園や庭園を歩いたことがある。季節の花を見るというテーマで散策したのだが、その友人だけでなく、私も心に元気をもらった。自然にふれることの心地よさをこの本でまた思い出した。

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女子3人の数年後が気になる!

私にも森に住む独身女性の友人がいたら、毎週、行くのにな。移住のきっかけが、ナチュラルやエコじゃなくて車があたっただけ!って、やるな〜。友人が持参する食べ物もいい感じだ。どこにでもあるような「サイゴンの揚げ春巻き」とか「ブルボンのアルフォート」とか。「早川、梅干とか作れば?」「やーよ面倒くさい」という会話は気分爽快ですらある。齢40歳を超えた私としては、かつて自分も過ごしたはずのこういう時間って実は、超貴重だったんだなとしみじみ思う。子どもとか夫とか関係なくて、自分と似たような気楽な友人があと2人いて、いつでも会える。嫌なことだってあるだろうけど、森で過ごした出来事を思い出し、おいしいものを食べて忘れられる。もはやファンタジーだ! この3人は数年後、どんな女子になるのかな。

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もうひとつの場所を持つこと

ひとことで言うと、3人の女友だちがしゃべっているだけの本。劇的な絶望も、夢みたいな希望も訪れない。でも3人の何気ない会話には、読む者の胸の奥までしみ込んでくる言葉がたくさんあって、そもそも本というのは良い言葉を編んだものなんだよな……と、ものすごくベーシックなことに思い至りました。本書の3人は町で仕事をしながら、週末に森に入る。といって、とくべつ自然志向ではない。たべものや道具を手作りしたりはせず、自分のかせいだお金で買う。でも、働いてお金をかせぐ場所とは別の場所を持ったということが重要で、それは大自然の中でなくともかまわないのだ。ふつうに働くことは、それだけでもしんどい。そのしんどさを、解決するでも激励するでもなく、「しんどいよね」と友だちのように言ってくれる本だ。

関口靖彦 11月20日には、益田ミリさんの初の小説『アンナの土星』も出ます。14歳の女の子アンとお兄ちゃんと宇宙の物語です

大冒険ではないけれど

何歳になっても大冒険できる人は、魅力的だ。でも世の中、そんな人ばかりじゃないし、仕事とか家族とか老後とか退屈な毎日を大事にしてくれる人がたくさんいないと、たぶん困る。ではそのたくさんの毎日は本当に退屈なんだろうか。見知らぬ駅で降りる。はじめての喫茶店でお茶をのむ。新しいお友だちをつくる。大きくはないけれど、小さな冒険の余地が毎日にはまだいっぱいあるって、早川さんたちは教えてくれました。

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明日のわたしに元気をくれる本

週末、森で早川さんが何気なく語ることばがいい。カヤックを漕ぐとき「手もとばっかり見ないで自分が行きたい場所を見ながらこぐと近づけるよ」。夜の森を歩くとき「暗がりの中では真下より少し先を見つつ進むの」。楽しい週末のあと、平日の日々に戻ったマユミちゃんとせっちゃんは、仕事中、早川さんのことばをふと思い出し、こころをやわらかくする。最近こころがガチガチに凝ってるわたし。行かなくちゃ、週末、森へ。

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いい湯加減の一冊

先日、友人たちと湖畔でキャンプをした。自然の中でのんびりするのはとても有意義だが、火をおこして料理し、冷えこむ山の夜で過ごすのは大変だ。そんなときカセットコンロや新素材の寝袋が頼もしい。グッズを買い揃えただけで外に出たくなる。僕のエコはただのファッションなのだろう。早川さんは田舎で暮らしながら、流行のお菓子を食べるし畑も耕さない。決して無理をしない。だからもう少し浸かっていたくなる。

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ちょうどいい感じがいい

田舎暮らしに憧れながらも、畑仕事や自給自足生活はとても無理だと思っていた。だけど、この早川さんは、野菜をお取り寄せしたり、ぶつぶつ交換で畑を作ってもらったりと、とても自由だ。スローライフといった概念にとらわれず、バランスのとれた「今」の生活を楽しんでいる様子がうらやましい。3人が雪の中で笑いながら寝転び、青空を見上げるシーンがなんだか心に残った。と思ったら、最後に嬉しいプレゼントが!

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30代ガールズトーク!

山の中でひっそりと咲く花を見て、人知れず咲く花の姿はキレイだな、と思いつつ「どうせ咲くならあたしは見られたいわよ」と言うマユミちゃんがかわいい。きれいごとに隠された違和感をやり過ごすことなく表に出しちゃう感じが不器用で実直で、女友達のこんな場面に遭遇すると、ああ、私もちゃんとしなきゃ、と思わされる。早川さん、マユミちゃん、せっちゃんのような友達は大切にしたい。自分のために。

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日曜の夜に、お風呂で読みたい

ムカッとか、イラッとか、したことが、イガになって胸の奥で踊り続けることがある。人に、というよりふがいない自分に腹が立って、かなしくて、イーッてなって、泣きたくなる。マユミちゃんやせっちゃんが前を向くたび、そんなイガを、やさしく撫でてもらえた気がした。湯船につかって一息つくみたいに、静かに。もやもやは消せない、全部抱えたまま日々をゆくしかない。だから明日をがんばろう。そんなふうに思えた。

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読むたびにじわじわくる一冊

早川さんのなにげない言葉を思い出して、マユミちゃんやせっちゃんはちょっぴり救われる。読者の自分も、ささくれた心にじわじわくるものがあって、そして驚いたのは、再読しても、そのたびに、新たに響く言葉があること。別に高尚なものじゃなくって、ちょっと視点をずらして考えるヒントとなるものが自然に出てくる。早川さん、すごいよ。「すごくない?」とか「不思議だね」という気持ちも、見習いたいと思いました。

岩橋真実 携帯を1カ月弱修理に出してました。代替機の期間に限って重要なメールが多数……。タイミングの神様って、結構むごい

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