2009年09月号 『星守る犬』村上たかし

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/6

星守る犬

ハード : 発売元 : 双葉社
ジャンル:コミック 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:村上たかし 価格:823円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『星守る犬』

村上たかし

●あらすじ●

林道わきのひまわり畑にあった放置車両から、中年男性の遺体が発見された。死後1年から1年半の、その遺体。だが、不思議なことに、そばにあった犬の遺体は死後3カ月だった。物語は、犬の「ぼく」の「さいしょのきおく」から始まる─。「げんきそうなおんなのこ」に拾われて幸せに暮らしていたが、何年も過ぎるうち、家族は少しずつ変化していく。そうして、「ぼく」・飼い犬ハッピーと、「おとうさん」のふたり旅が始まった。「星守る犬」、それは、犬が星を物欲しげに見続けている姿から、手に入らないものを求める人のことを表す。ふたりの旅の終点までを描く『星守る犬』に、「彼らへの葬儀の章」(あとがきより)として外伝『日輪草(ひまわりそう)』を収録したコミック。

むらかみ・たかし●1965年、大阪府生まれ。85年『ナマケモノが見てた!』でデビュー。著作に『天国でポン』『ナマケモノがまた見てた』『ぱじ』『ほんまでっせ!お客さん』『ぎんなん』などがある。 『ぱじ』で2000年、第4回文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞。

『星守る犬』
双葉社 800円
写真=冨永智子
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編集部寸評

涙の後に一面の向日葵が咲き誇る

編集部に届いた本書の原稿コピーを読み、仕事中にもかかわらずデスクで号泣した。その日は地下鉄に乗ってもまた泣いた。僕たちの人生はどこまでも続く闇の中で決して届かない彼方の星を望んで生きているのだと。主人公の転落人生は果てしなく哀しいが、彼にはハッピーがいてくれた。愛犬のまっすぐな愛を受け、彼の最期は美しく彩られる。ひたすら悲しく、どこまでも温かいラストに涙が止まらない。尚かつ、後半に収められた「日輪草」がまた素晴らしい。読む者の悲しみを昇華する構成となっており、絶望の果てに死んでいった(ようにも見える)「おとうさん」の生涯が俯瞰され、丁寧に肯定されていく。そして生きとし生ける者すべての、悲しみに染まった人生を一面の向日葵で鮮やかに飾りつくしてくれる。見事です。感涙!

横里 隆 本誌編集長。9月7日〜9日、鈴井貴之『ダメ人間』刊行記念全国縦断サイン会を実施!詳細は本誌99ページを参照あれ

待ち続けてくれる存在がいる幸福

自分を信頼して常に傍らにいてくれたハッピーと最期まで一緒に過ごすこと──そのために全てを投げ打ち死んでいったお父さんは確かに不器用で生命力に欠ける人だったかもしれない。でも、それをまっとうできたことで、彼は満足して死を迎えられたのだ。ハッピーのような存在がいたら、大事にして可愛がってやりたいと思うけれど、案外その幸せにはなかなか気づかないものなのだろう。「日輪草」の奥津がそうだったように。彼が犬を喪って「もっと遊んでやればよかった。もっとたっぷり散歩させてやればよかった」と悔やむシーンで思わず涙が出た。どうしてあのとき自分はできなかったのだと後悔してもしきれない経験が私にもある。大切な存在を亡くした人には、その哀しみに寄り添ってくれるように感じられる作品だと思う。

稲子美砂 『モリログ・アカデミィ』ピンバッジ当選者数大幅アップしました。13巻には森×萩尾対談『トーマの心臓』裏話も収録

幸せは人の心の中にある

今やお父さんは家の中で邪魔虫になったらはじき出される時代になった。子どもが生まれてから夫の無能ぶりに愛想がつきはてたとか、熟年離婚とか。主導権を握るのは女性ばかり。家族のために不器用でもお父さん然としていられた時代は終わりつつある。でもこの本を読むと、はじき出されたお父さんも、実は幸せに豊かな日々を過ごしていたのだと、男は一人自由に生きられるものなのかなと思う。そんな旅のお伴はやっぱり犬! 我が家には猫がいて、猫でさえどんなにか私を理解し、赦し、愛してくれていることか! 失うことで人は多くの大事なものを理解する。お父さんは家族を失ったけれど、犬の無償の愛と絆にどんなにか心休まったろう。人からみて不幸に見えても、本人は幸福であればよい。人生はその人ひとりの物語なのだから。

岸本亜紀 加門七海『お祓い日和』発売中。怪談専門誌『幽』も絶賛発売中です。9月12日イベントやります

最後に星を見上げる男の目

35歳の今、この作品に出会えてよかった。20歳の自分では、理解できなかったはずだ。家族も職も健康も失った中年男が、愛犬だけを伴って旅に出る。そして死んでしまう。20歳の私なら“ベタなお涙頂戴もの”と考えて読み捨ててしまっただろう。だが、ちがう。35歳の私にとって、この作品は、そんなものではない。それは私が、何かを獲得していく年齢から、失っていく年齢になったということだ。まじめに生きてきても、家族は自分を置いて去り、職場からは不要と言われ、病気になり、手元の金はわずか。その可能性は今や、切実に自分のものとしてある。悪人でも怠け者でもないのに、人はそうなってしまう。その絶望のなかで、自分を支えてくれるものがあるのか。その可能性を、死の間際に星を見上げる男の目が教えてくれる。

関口靖彦 ジャワの影絵芝居を絵本にした『山からきたふたご スマントリとスコスロノ』を毎晩ひらく。早川純子さんの絵にほれぼれ

広い世界で二人ぼっちという至福

犬を、自分。おじさんを、好きな人。という設定で読むと、とても至福の物語でした。なんのゲタもはいてないその人を愛せるか。最後のひとりになっても、その人の味方でいられるか。ハッピーみたいに。世界中で二人ぼっちっていいなあと思いました。たぶん二人でいても微力で安心感なんかなくて。でもそのわびしさや心細さも含めて、いい。わたしの好きな人もあのおじさんみたいに何もなくなればいいのにと思いました。

飯田久美子 世界でひとりぼっちと感じている方には、山崎ナオコーラさん&荒井良二さんのキュートな本『モサ』もいいですよ!

何も恐れずに愛してくれる存在

いわゆる動物もの、なのだが、いわゆる動物もの、とひと括りにし難い物語だ。なんだか、情けなくて、むなしくて、切なくて、それが無性にいいのだ。家族に見捨てられた飼い主でも、可愛がってくれない飼い主でも、関係ない。さまざまな事情で変わる人間の心と違い、変わらず真っ直ぐな瞳で自分を見つめ、いつまでも傍にいてくれる。自分に愛を注いでくれる存在がいる、そのことが人生を感謝で満たしてくれるのだ。

服部美穂 3特「ファンタジー特集」のためにファンタジー漬けだったのですが、『獣の奏者』完結編がひと足早く読めたのは役得

恐ろしいほど切ない

このおとうさんは、本当にダメな人だと思う。読んでいて恐怖を感じたほど。それはもちろん、そのダメっぷりに共感できてしまったからで、いつ同じ立場になってもおかしくないからだ。そのうえ、ハッピーのような仲間がいれば心置きなくすべてを捨てられるだろう。ほかになにひとつ必要なものがないのなら、自棄になるのも悪くないのかもしれない。ただ今はまだ生きることに執着している。いつもでも星守る犬でいよう。

似田貝大介 今年もお化けのイベントが盛りだくさん。『幽』の怪談イベントは9月12日に東京で開催します。詳細は本誌230ページ

おとうさんの気持ち

限られた人生のゴールに近づきながらも「おとうさん」は“ヘンに幸せ”だと笑う。いきなり家族という社会から放り出されたにもかかわらず。不器用な生き方だったのかもしれないが、彼をニクめない。最後の寄り道を自由に生きようと決めた、その意図に気付いてしまったから。ふたりの視線の先にちりばめられた輝くものは、いつも日常のなかにある。それを最期に一緒に見ることができたのはやっぱり幸せだったと思う。

重信裕加 井上荒野さんの『静子の日常』もオススメです。75歳のキュートな静子さんのように、洒落たおばあさんになりたい!


犬がくれた幸せな最期

泣ける話という視点で読むべき物語なのだが、男の死に様と、最後はお金がなくなって餓死しそう……という私の想像する自身の死が重なり、泣くというよりため息が出た。なにもなくなった男が描いた夢のような死への旅は、多少のハプニングがあったものの、ほぼ男の希望通り。最期には愛犬が横にいるなんて出来すぎだ。犬が語る人間への想いは、人間のエゴかもしれないが、いてくれてよかったと思う。

鎌野静華 『なんだ礼央化』2冊同時刊行記念グッズはストラップに決定。深川さんにイラストをお願いしました。お楽しみに!

少し、うらやましくなりました。

いつかお父さんの不明を知った時、お母さんとみくちゃんは何を思うだろう。もしかしたらお父さんのことなんて思い出さないかも。でもそれならそれでいい気がした。最後の最後で行けるところまで犬と一緒に走ったお父さんは満足していたから。人はみんな星を守って、理想郷を目指している。そうして前に進んでいるなら、たどりついた先がどんなものでも幸せを得られるのかな。その過程がどんな後悔をはらんでいても。

野口桃子 999特集でたくさんのことを学びました。プロの方々の本領。創作の源にある知識と経験と覚悟。感謝でいっぱいです


男が最後の旅でみせた素直な姿

「おとうさん」は、もっとずるがしこく振る舞ったり、なりふり構わず助けを求めて生き延びようとすることもできたはず。そうせずに過ごして、「お前を野良にしないため」「おまえが心細いだろ?」と言っていた(強がりかもしれないけど)男が最後の日々でみせた姿は、本当に素直だ。元家族が見たらどう感じるかしらとちらっと思う。「ありがとう」と心から思い終われるなんて、とても希有で幸せなことだと強く感じた。

岩橋真実 GL特集でゆりゆりした日々でした。紹介しきれなかったオススメ作品もたくさんあります。女の子って、いいですよね

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