2008年04月号 『イムリ』三宅乱丈

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/11

イムリ 1巻 (BEAM COMIX)

ハード : 発売元 : エンターブレイン
ジャンル:コミック 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:三宅乱丈 価格:691円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

2008年3月6日

『イムリ』1?3巻
三宅乱丈
エンターブレインビームC 各672円

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「カーマ」の民が統治する星マージ。
彼らは、他者の精神を侵犯する特殊能力を駆使し奴隷民「イコル」を従え、強力な階層社会を形成していた。
カーマの故郷で、古代戦争で凍結した隣星・ルーン。そこは、かつてのカーマの敵である謎多き民族「イムリ」
の暮らす地であった。
マージの呪師養成寄宿学校に通う、非凡な才能を持つ少年デュルクは、学生代表としてルーンへ渡り、幼き頃よ
り夢に見た、自分と同じ顔の「少女」ミューバと出会う。しかし、視察中に軍事クーデターが起き、カーマ兵に追われる身に。デュルクは旅のイムリとともに森を彷徨うが、その中で「夢見のイムリ」と自らの共通点を知ることになる。心優しき少年と、それぞれの星、民族が背負う宿命とは……。
壮大なSFファンタジー・サーガ。
『イムリ』1?3巻

撮影/石井孝典
 
 

  

みやけ・らんじょう●1966年生まれ。北海道札幌市在住。99年『週刊モーニング』にて連載の『ぶっせん』が、初連載作品にして人気を博す。ほか『大漁!まちこ船』、『ペット』など。念願の本格ファンタジー『イムリ』を『コミックビーム』2006年8月号より連載。


横里 隆
(本誌編集長。次号にて弊誌のリニューアルを行います。内容はそんなに変わらないのでリフレッシュといった方がいいかも。刷新するダ・ヴィンチをお楽しみに!)

どこか、懐かしくて新しい
傑作SFファンタジー巨編

一読し、ある種の懐かしさとともに、再会の喜びに満たされた。ああ、やっぱりこういうマンガが好きだ!と。それは、女性マンガ家の手によるSFファンタジー巨編とでも言おうか。この国のマンガ史において、萩尾望都『11人いる!』『百億の昼と千億の夜』、竹宮惠子『地球へ…』、佐藤史生『夢みる惑星』、水樹和佳子『イティハーサ』……と、優れた女性マンガ家たちが、同時代の男性マンガ家の描くSFファンタジーを大きく凌駕した傑作を生み出してきた。そして、この『イムリ』もまた、その系譜に属する作品なのだ。それらの作品は女性作家の手によるゆえか、どれも登場人物たちの内面の葛藤が見事に描写されていて魅力的だ。『イムリ』においても、他者の精神を意のままに操る“呪”というものが描かれるが、これはすべての“言葉”が内包する暴力的側面のデフォルメとも言える。
言葉は人と人を繋ぐが、同時に暴力的支配をももたらす。そして物語は人々を支配する社会のカラクリを明らかにし、そこで繰り広げられる権謀術数に及んでいく。おもしろい!昨今では影の薄かったSFマンガの正当な後継者の誕生に拍手! 


稲子美砂

(本誌副編集長。主にミステリー、エンターテインメント系を担当)

奇才・三宅乱丈の新境地

SFやファンタジーはその世界に入り込めないと読むのがかなりつらいものだが、『イムリ』はすんなりと物語の中に引き込んでくれた。マージとルーン、この二つの星の関係性、それぞれに居住する民族、彼らの持つ能力や階級構造など、言葉もいろいろあって複雑だし、謎だらけなのだが、ストーリーの展開が早く、魅惑的な絵の助けもあって、あっという間に3巻読了してしまった。読み返すと気づく伏線も多く、そのたびごとに解釈の幅も広がりそうだ。力づくで支配するされるという恐ろしい階層社会で威圧的なキャラの多いなか、主人公のデュルクの優しげな表情と言動、誠実な行動は、読んでいてとても安心できる。彼の成長物語としての構成もすばらしい。三宅乱丈さんというと、女性らしからぬぶっとんだ設定の『大漁!まちこ船』や記憶をテーマにした『ペット』などを思い浮かべるが、これまでの引きの強さはそのままに『イムリ』は世界を深く深く掘り下げている。まだ序章の感があるファンタジー大作である。


岸本亜紀
(怪談『深泥丘奇談』綾辻行人、コミック文庫『こんな生活』『くいしんぼマニュアル』大田垣晴子、発売になりました!)

SFファンタジーの王道を行く、
悲しみに満ちた壮大なサーガ!

圧倒的な画力と精緻な世界観で構築されるテンポの速いストーリー展開。巻を重ねるごとに、息を呑むシーンが続き、3巻では冒頭で「えっ!」に始まり、最後で「ええっ?!」で終わる。ルーン星の血塗られた歴史を一人背負った少年に課せられた宿命はいったいどんなに過酷なのだろうか……と母親の気持ちで涙ながらに物語の行く末を想像している。一方で美しい無国籍な衣装、呪術や使い方の忘れられてしまった古代民族の戦争の道具、選ばれた民族だけに許される双子のテレパシー(夢見)といったSFの王道をいくガジェットが自然に美しく織りなしているところがすばらしい。萩尾望都や宮崎駿が作ってきたSF巨編の基本メソッドを踏襲する傑作の誕生の予感だ。入り組んだ世界にもかかわらず、そのややこしさを上回る謎めいたエピソードの数々によって、とにかく続きが読みたくなるのだ。今後がとにかく愉しみな作品である。


関口靖彦
(ダ・ヴィンチ文学賞出身者で、「L25mobile」で大人気の沢木まひろ『ブランケットタイム』が文庫で3月14日発売!)

力を持てないことの不安、
力を持った者の不安

架空の世界ではあるけれど、ここには間違いなく「歴史」がある。世界を統べる力を求める者たちと、持ってしまった者たち、今ある世界の中で昇りつめようとする者たちと、世界そのものを変えてしまおうとする者たちの物語。どの立場にある者も、その胸を焦がすのは現状への不安と焦燥だ。「このままではいられない」という切迫した思いが、物語を加速させる。そして、さらに力を得て、あるいは転落して、その先に何があるのか。破滅ではなく希望を見出せるのか。『イムリ』では、その分かれ目がデュルクという若者に賭けられている。複雑な設定、二つの星、数多くの個性的なキャラ??壮大な世界の運命を一人の若者に集約するストーリーテリングの
巧みさ。その先の「希望」を見届けるまで、読み進めずにはいられない。


飯田久美子
(第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞の瀧羽麻子さんの第2作『株式会社ネバーラ北関東支社』、笑えてほっこりする作品です。よろしく!)

あの渦巻きは、
元気玉みたいなもの?

この渦巻き、なんなの!?ということがいまだにわからない。ほかにもいろいろよくわからないことだらけで、いまも困っている。でも考えてみれば、そもそも世界はわからないことだらけだ。小さいときは、知ってることがほとんどないから、どこへ行くにも誰に会うにも、いちいちビクビクしていた。(デュルクが学校に入ったり、初めて隣の星に行ったりするから、そのことを思い出した)いまは、大人になって前よりは知ってることが多くなったから、それに既知のもののなかだけで生活しようと思えばできるから、ときどき忘れてしまうけど、それでも、やっぱりわからないことや知らないことのほうが本当は圧倒的に多い。わからないことや知らないことがまだまだあるってことは、怖いしドキドキするけど、それは可能性とか未来とかいうものなんじゃないかと、この本を読んで、少し反省しました。前は、元気玉がいったい何なのか、とかいちいち考えなかったし。


服部美穂
(益田ミリさんの新刊『結婚しなくていいですか。』に思いがけず泣かされてしまいました。オススメ)

ここから先はもう目を離す
わけにはいきませんよ!

『ペット』の三宅乱丈が壮大なファンタジー・サーガに挑んだとなれば読まないわけにはいかないと1・2巻発売後すぐ購入したのだが、う?ん面白い!続く3巻では、秘された謎が少しずつ明らかになり、主人公デュルクと、彼と同じ顔の「少女」ミューバに忍び寄る皮肉な運命を予感させるような場面も垣間見え、物語は盛り上がりを見せ始める。この世界の階級構造や多くの用語が出てくるために、最初は多少難解に感じるかもしれない。だがそれは、しっかりとした世界観が構築され、物語の鍵になる伏線が縦横に張り巡らされているからだ。こんなに複雑で壮大な世界を作り上げ、現実世界の私たちの歴史や原罪をも想起させる骨太な物語を創り上げた作者に本当に脱帽した。


似田貝大介
(『山の霊異記 赤いヤッケの男』『飛騨の怪談 新編綺堂怪奇名作選』山を舞台にした2冊が絶賛発売中!)

キャラの魅力に掴まれて
一気読みです

本作は正統派ファンタジー作品だ。これまで、三宅作品の奇抜な設定に毎回驚かされてきた私には意外だった。しっかりと構築された世界は、大勢の登場キャラクター、二つの星、さまざまな種族、階級が交錯して、物語に慣れるまで時間がかかるかと思った。そんな心配をよそに、読み始めてすぐにのめり込んでしまったのは、なんといっても魅力あふれるキャラクターたちだ。魔法のような能力を使い、まるで人間離れしたキャラクターたちだが、どれもこれも人間くさい。精神を操る術をもつ支配民族カーマは、術や階級社会に縛られている。そして自然の中で「夢を繋げて」生きる種族イムリ。両種族の間で揺れ動く主人公を通して見えるものは、決してファンタジックなものだけではない。

イラスト/古屋あきさ

読者の声

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