今月のプラチナ本 2013年5月号『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』 山田詠美

今月のプラチナ本

2013/4/6

明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち

ハード : 発売元 : 幻冬舎
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:山田詠美 価格:1,470円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『 明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』山田詠美

●あらすじ●

東京郊外の一軒家に移り住んだ二組の親子。母、長男・澄生、長女・真澄の3人に、母の結婚相手とその息子・創太、さらに母と新しい父親の子ども・千絵が加わり、幸せな家族として人生を再スタートさせる。そんな矢先、長男の澄生が雷に打たれて死んでしまい、澄川家は一変。母がアルコール依存症になり、家族はそれぞれに心の行き場を失ってしまう。失ってしまったかけがえのないもの、それは家族の一員であると同時に、幸福を留めるための重要なねじだった。著者渾身の新たなる代表作は、突飛で、愉快で、愚かで、たまらなく温かい家族が語りだす愛惜のモノローグ、傑作長篇小説! 第65回野間文芸賞受賞後第1作。

やまだ・えいみ●1959年、東京都生まれ。85年『ベッドタイムアイズ』で第22回文藝賞を受賞してデビュー。87年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で第97回直木三十五賞、89年『風葬の教室』で第17回平林たい子文学賞、91年『トラッシュ』で第30回女流文学賞、96年『アニマル・ロジック』で第24回泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で第52回読売文学賞、05年『風味絶佳』で第41回谷崎潤一郎賞、12年『ジェントルマン』で第65回野間文芸賞を受賞。多数の著書がある。

幻冬舎 1470円
写真=首藤幹夫 

編集部寸評

 

悼むこと、祝うこと

まずタイトルに撃たれて、じっとカバーを見つめてしまう。まったく単純な真実、しかし普段、できるだけ考えないようにしていること。自分はいつ死んでもおかしくない。そして自分にとって大切な人も。本書に登場する澄川家では、そんな大切な人の死を、家族ひとりひとりが必死に受け止め、乗り越えようとする。同じ家族の一員であっても、「私」にとって、「おれ」にとって、「あたし」にとって、その死の意味はそれぞれ異なる。家族の存在を助けにしながらも、それぞれに乗り越えなくてはならない。そのとき、澄川家のひとびとは言葉を用いる。言葉を失っていく母の周囲で、そのほかの家族は懸命に思考し、語り合う。悼むということ、祝う=ことほぐということ。そこには言葉が必要で、だからこそ澄川家が達した結論は、大きな力を持って読者を揺さぶる。言葉の芸術である、小説ならではの力。死の重苦しさを超える、ラストの開放感が実に鮮やかだ。

関口靖彦本誌編集長。あるていどの年齢になり、家族や友人にぽつぽつと死者が入り交じるようになった読者のほうが、より深く感得できるものがあるかもしれません

 

喪失の先に生まれるもの

大切な人を「喪う」という経験は、人生における最大の悲しみであり、転機だと思う。歳を重ねるなかで降り積もる喪失感に、人はなぜ押しつぶされずに生きられるのだろうか。「誰かが死ぬと、必ず誰かの新しい人生が始まるんだよ。それは、つらい始まりであることがほとんどだけど、その内、絶対に隠れていた希望が姿を現わすんだから」
 本作の中には、さまざまな「死」に寄り添ってきた著者ならではの熟成された表現が溢れており、一文一文に込められた万感の思いが読み手に手渡されるように綴られている。澄川家は幸せな家族だと思う。「幸福を留めるためのねじ」だった澄生を失った悲しみや影響力は計り知れないが、家族みんなが母親を愛し気遣い、なんとか彼女を救いたいと思う気持ちがまた新たな「ねじ」となり、家族をしっかりとつなぎとめているのだ。彼らは本当によく話す。その言葉によって体温が伝わる温かくてクールな家族小説。

稲子美砂穂村弘さんのエッセイ集『蚊がいる』の装丁依頼で横尾忠則さんのアトリエに。「穂村さんの文章は蚊みたい」とおっしゃる横尾さん。どんな装丁になることでしょう

 

「ぼく勉」に連なる感動傑作!

雷に打たれた長男の喪失は母を打ちのめした。私も男子の母親だ。だから分かる。一番上の子どもを失う恐怖を。けれど母にはあと3人、子どもがいたにも関わらず壊れた。そんなこと許されるんだろうか――。読んでいて怒りにも似た感情が沸き起こる。責任感の強い長女の真澄。母と血がつながっていないからこそ過剰につながりを求めるけなげな創太。わざと斜に構える千絵。おろおろする父。誰もが必死だった。それなのに、母は壊れた。こんな一生懸命な良い子たちが迷っているのに。しかし時はたち、家族それぞれの祈りが母に届けられる。母はダメすぎたのに、それでも愛された。長い冬眠の時期が過ぎ、春の太陽の兆しを感じたかのように。ラストの名言。山田さんは“優しく”教えてくれる。“今”の積み重ねで、奇跡が起こり続けているのだと。「人生よ、私を楽しませてくれてありがとう」という一文の意味を深くかみしめる一冊。

岸本亜紀『Mei(冥)』2号、4/19発売。特集はムーミンの作家、トーベ・ヤンソン。4/12、大阪が舞台の傑作小説、『幻坂』、有栖川有栖著、発売。今年イチオシ!!

 

ただ“生きて”いてくれれば

長男の死をきっかけに崩れていく母親とそれを支える子供たち。三兄弟それぞれの立場から淡々と綴られる彼らの日常は、激情に呑まれていく母とは対照的に、なんだかふわふわとしている。家族の中に、どうしようもなく、その行く末を心配し続けなくてはいけない人がいるというのは、とてもしんどい。でも、自分たちはこれからも母を守り続けないといけない。そう思ってきた兄弟たちが終盤気づく。「たぶん、皆、思い出したのだ。彼女が病人である前に、愛すべき母であることを。たとえ、どんなに沢山の問題を抱えていても、その事実は変わらないということを。」この言葉に、時間の重みと家族のつながりの割り切れなさを感じて、はっとした。それでも、やっぱり母は母だ。生きて、そこにいてほしい。そんな子供たちの強い思いが溢れたラスト、緊張がとけてほっとした後の包まれるような感動に、読後しばらく動けなかった。著者の新たな傑作だと思う。

服部美穂有川浩特集「有川浩とめぐる高知」を読んでは、高知で出会った美味しい食べ物に恋焦がれる日々。ああ、カツオの塩たたきがもう一度食べたい!

 

死をおもい、繋がりを感じる

澄生は雷に打たれて亡くなった。どんな人物であれ、どんな死因であれ、死は平等であってほしい。しかし澄生のような場合、それこそ不謹慎だが、他人にしてみれば格好の話のネタになってしまうのだ。深刻な顔をまといながらも、話したい衝動にかられる。一方、それが本当に大切な相手ならば、その悔しさたるや計りしれない。私の大切な人間を思い浮かべてみる。私も彼らもいつか必ず死ぬ。当然のことかもしれないが、読書中に何度も、ギュッと胸を締めつけられた。

似田貝大介ガールズ怪談の秘密兵器・宍戸レイさんの初単行本『Kowaii 怪談実話コレクション』がMF文庫ダ・ヴィンチから4月25日に発売!

 

家族を作るということ

家族の一員として、それぞれが自分の役割を担いながら、澄川家は理想の家族を作り上げようとした。「幸せの分量」が増えていき完璧に近づけるまでの過程は、健気であり少し怖くも感じた。だが本来、家族とはそういうものなのかもしれない。血のつながらない他人が同じ屋根の下で暮らし、さらには親子の血縁を強化していく。その絆は最初は脆くても、支え合い想い合い、許し合いながら強めていくものなのだ。自分は人生の最期に何を思うのか、読後ずっと考えていた。

重信裕加今月号P48のあさのあつこさんのインタビューで岡山に。会う人みんないい人たちで再び岡山行きを計画中。心が洗われました!

 

最期をどう迎えるか

私の最期は、事件事故、お金がなくなって病院に行けず病死もしくは餓死、あるいは孤独死だなぁと思っていた。でも本作を読んで、私と深く関わりのある人がいたら、どの最期になったとしても、心に悲しみ以外のものを背負わせてしまうかもしれないと今更気づいた。オビの「誰もが、誰かの、かけがえのない大切な人。」という一文。私のことを大切と思ってくれる人がいたなら、その人のためにどう死を迎えるべきか考えてみようと思った。

鎌野静華オードリー若林さんの連載が一冊の本に。特設サイトはこちら→//ddnavi.com/feature/130122/

 

強く明るい、死にとらわれた物語

澄生の死が横たわる澄川家の物語は、はっとさせられる言葉に満ちている。小説のかたちなのだけれど、たくさんの示唆を与えてくれる。ラストの美しい午餐は、登場人物にも読み手にも大切なギフトだ。人生をどう方向づけるか、気の持ちようで、大切な人の一言で、世界の色は本当に変わる。思いを伝えること、言葉で表すこと、気付きを与え合える関係性の愛おしさ。物語として豊かであると同時に、読み手の人生にも豊かさを贈りこんでくれる、稀有な素晴らしい小説。

岩橋真実本誌発売時に公演中の『旅猫リポート』舞台が楽しみです。芝居は本当に一期一会! 「アマヤドリ」の旗揚げ公演も良かった

 

母性に満ちた物語に包まれる

人は老い、病み、そして死ぬ。そんなあたり前のことが家族の生を劇的にゆさぶる。喜怒哀楽すべてひっくるめて、そのありさまを見守るように描かれたのが本作。生者は死者を受け止めることなしに生き続けることはできないが、死者は生者の言葉に応えてはくれない。だから想像力をはたらかせるのだ、と説いたのが『想像ラジオ』だとすれば、本作は生者を包む母性に満ちた作品。小説がもつ想像力や治癒力を豊かに感じることができる両作は、ぜひあわせて読んでほしい。

川戸崇央有川浩特集を担当。映画『図書館戦争』『県庁おもてなし課』は本当によかった! スタッフの力が結集した、元気がわく作品です!

 

大切な人のために生きる

兄の死により、家族のバランスが崩れた。以後、誰もが「死」に怯え、考えを巡らせながら日々を生きる家族たち。私は本書の家族ほど、「死」を意識して生きてはいない。しかし読むにつれ、大切な人の「死」が訪れたあの苦しさを思いだし、胸はざわつきっぱなしだった。でも、ふと、この一文に心打たれる。「自分が死んだら、この人はどうなるんだろう、と想いを馳せる側の人間に、あたしはなりたい」。私も「死」を、そう思おう。大切な人のために、生きていきたいって。

村井有紀子『大泉エッセイ』が4月19日に発売! 大泉洋さん著、1997年から綴られた16年間のエッセイ。目印はあだち充先生の装画!

 

喪失のあとどう生きるか

家族の誰かに死が訪れたとき、喪失をどう埋めていくかは一様ではない。穏やかに死を悼む人もいるだろうし、関係が壊れるほど絶望に沈む人もいるだろう。本書の喪失は、とりわけ特別なパターンだ。作った家族を繋ぎ止める人間を失ったら? 悪化する関係性のなかで、それでも家族であろうとする子どもたちのひたむきさ、頼りないが芯の通った父の思いが愛おしい。信じれば、心の拠りどころとなる「家族」を感じる瞬間は必ずやってくると思わせてくれる作品だ。

亀田早希前号の「本」を贈る特集の反響が続々届いています。「役に立った!」「贈りたい!」というメッセージをいただき、嬉しいです

 

 

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