少年が冒険するのは、逃げ場ではなく、向きあうための夢物語

小説・エッセイ

公開日:2013/4/11

ブランコのむこうで

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 新潮社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:星新一 価格:518円

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世の中はバランスだ、とか、何事も適量だ、といった事は、いつの世も言われます。例えば、現代はストレス社会と言われて長いですが、なんでも、全くストレスや緊張がない生活も、それはそれで健康を害するのだそうで…。

刺激・負荷はとにかく諸悪の根源! ではなく、これも適量必要というわけです。怖いもの見たさや、スリルを欲しがる人が多いのも自然の摂理なのかもしれませんね。

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―――言うなれば、本作もそのひとつ。
ハリの無い生活に送る、ピリリとした処方箋です。それも、とびきり良薬ですよ。

少年はある日、自分にそっくりな男の子を見かけます。驚くほどにそっくり。どうにも気になって追いかけていきますが、その内になんだかよく分からない所へ来てしまいます。どうやら、迷い込んだのは夢の世界のよう…。

自分に似ているのも当然でした。なんと、追いかけていたのは夢の世界から抜け出てきた、自分自身だったのです。少年はそこから脱出するべく、様々な夢の世界を股にかけ、冒険していくのでした。

闇が辺りに散らばり、朝が来ない街や、勇敢で少し乱暴な王子の住むお城。
正義という暴力を振りかざす皇帝が統べる国から、催眠術でつくられた夢の世界なんて所も。

ショートショートでお馴染み、短編の神業師・星新一が紡ぐのは、藤子・F・不二雄が提唱した「S(少し)F(不思議)」を思わせるお話。夢と言っても、なんでもありというワケではありません。現実や夢の持ち主自身に立脚した秩序があるのです。

少年の冒険譚も、もちろん気になる所ではありますが、それぞれの世界へ想像を膨らませる楽しさったらありません。なんというか子供に戻ったような気分なんですね。

幾度なるほど! と膝を打ったかわかりませんが、ドキドキとワクワクの成分比率は絶妙であります。単なる空想物語で終わらないところは、さすがという他ありません。

山椒のような旨味と辛味、風味の詰まった逸品!


ど、ドッペルゲンガー!

夢の世界。わからないような、わかったような

まるで不思議の国のアリス

巡り巡って、果たして夢から抜け出せるのでしょうか?