あなたの読みはいかなるものか?

小説・エッセイ

2013/4/19

小さいおうち

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 文藝春秋
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:中島京子 価格:586円

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今年米寿を迎えた老嬢タキが、10代後半から女中奉公をつとめた赤い三角屋根のちいさな家。そこで暮らしたのは、主人と美しい奥様とひとりの少年だった。

やがて戦争の影が近づき、とうとう太平洋戦争が勃発。戦後までうつろう一家の姿をつづるタキのノートの叙述が、この小説の大部分を占めるのである。

本作には型どりをした「世界」がある。「世界」とは先行作品のプロットのことだ。『ちいさいおうち』という絵本、またそれをもとにしたアメリカのアニメーションである。

緑豊かな田舎町に赤い屋根の瀟洒な家が一軒ある。遠くに町のともしびがチラチラまたたいて、家は町に住んだらどんなだろうと空想する。ある日家の前を自動車が走り、それからまわりに家々が建ち、やかましさと息苦しさに赤い屋根の家が苦しむのも尻目に、家々がビルに取って代わるのもあっという間だった。赤い屋根の家は心も体ももうぼろぼろだ。

このあと赤い屋根の家はある手段で救われるのだが、それは秘するが花。

中島京子の『小さいおうち』は、いくとおりもの読み方を許す芳醇な小説だ。

まず、食べ物小説としての悦楽。戦前の昭和の食卓はこんなに彩りがあったのかと、舌を巻く。ハンバーガーと焼き肉と廻る寿司とフライドチキンをかわりがわり食べてるみたいな私たちからすれば、賛嘆とあこがれのお手本である。醤油や味噌のいわゆる「さしすせそ」で料理された食べ物が、次々とシーンに現れるのだ。誰かこれ作ってくれないものか。

賛嘆とあこがれは食べ物だけに限らない。戦前を風靡した洋風と和風を折衷させた風俗、昭和モダンと呼ばれる生活スタイルもオシャレなことこの上ない。彼らの寝起きするこの赤い屋根の家はもちろん、服装、髪型、おもちゃ、私たちの世代はレトロを、もっと若い人たちは新しさを感じるに違いない。

ミステリー小説としての読み方もある。

あるひとりの青年が登場して不倫らしき事件があったと推測されるのだが、それはあくまでもタキの目から見たあやふやな徴だけで、あからさまな場面は一度とて描かれずに終わる。最終章において、時々タキの手記を盗み見ていた甥が、絵解きじみた読み込みを展開するものの、はたして真相かどうかはやはり藪の中だ。ただ、もしそれが真相なら、こんなに切なく狂おしい出来事があるだろうかという気にさせられるのは間違いない。

ほかにも、戦争に関して、今の我々とはずいぶん食い違う庶民の感じ方で書かれているし、社会的な目をもたずにこの赤い屋根の家に閉じこもるようにして青春を過ごしたタキを、あの絵本の「ちいさなおうち」のメタファーとして読み取ることも可能だろう。

あなたの読みはいかなるものだろう。


タキは赤い屋根の家に奉公にあがる

食べ物も建物も東京モダンだ

多彩な食べ物が豊富に登場する

我々の知識とは違う戦争の姿が描かれる