ヤクザ専門ライターによる最も面白く悲惨な原発ドキュメンタリー

小説・エッセイ

更新日:2013/4/15

ヤクザと原発 福島第一潜入記

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 文藝春秋
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:鈴木智彦 価格:1,234円

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不謹慎だと思われるかもしれないが、あえて言いたい。原発関連以外のジャンルと比較しても、こんなに面白い本は久しぶりに読んだ。

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著者は「実話時代」の編集長も務めたヤクザ専門ライター。ある土地の親分に発した「原発って儲かるんですか?」という問いは、座持ちのための世間話にすぎなかった。しかし、親分ははっきり答える「原発は儲かる。堅いシノギだな」。“タブーの宝庫”だからこそ裏社会の“打ち出の小槌”となりうる。たとえば、反対派を押さえ込む、補償金を先に貰う交渉をする、地元の土建屋に仕事を振る、人夫を斡旋して給料をピンハネする…儲ける方法はいくらでもある。

そして福島の事故があり、著者はヤクザルートで協力会社(つまり東電やプラントの下請け・孫請け企業)に連絡を取った。第2章より、著者自身が作業員として原発に入ったルポが中心となるが、これが読み応えがある。どのように収拾すべきか結論が出ていないらしい東電、「死んでもいい奴を集めてくれ」下請け会社社長への過酷な要求。志願した作業員のヒロイズム、実際の給料のピンキリ、周辺風俗界の大繁盛などなど、エピソードに事欠かない。東電関係者や業者に取材した汚染の深刻さは危機的状況だ。第2号機水素爆発の可能性も著者は示唆している。

さらに周辺取材で、著者は原発の根本的な病巣に至る。原発に限らず発電所は産業のない寒村につくられ、雇用を促進する。仕事が必要な人間、家族や親戚が仕事を貰っている人間は雇用者の悪口は決して言わない。批判する人間は地縁・血縁で密につながった共同体から排除される仕組みだ。

「原発は村民同士が助け合い、かばい合い、見て見ぬふりという暗黙のルールによって矛盾を解消するシステムの上に成り立っている。不都合な事実を詰め込む社会の暗部が膨れあがるにつれ、昔からそこに巣くっていた暴力団は肥え太った」。「わずか一カ月あまりの勤務で原発に対する結論を出すのは短絡だろう。原発を続けるべきか、脱原発にシフトすべきか、私は確証を持った答えを出せていない。ただ、1Fの復旧作業に携わり、原発が人間の手に負えない産物であることは実感した。」とある。

経済を潤す代わりに絶対的な権力を掌握し、作業員の被爆という犠牲を不可避とする巨大システム、原発。終章の少し前の著者の述懐は、脱原発というよりそもそも人類が手を出すべきじゃなかったのではという疑問とも読み取れた。


このあたりのレポートは現場に入った人間ならでは。それにしても、弱い生き物がこんな形で影響を受けるのは…

ソープ嬢が飯を食う暇もないほど働いている、それほど客が多いという状況。しかも“英雄”だから断れないしね

本来の基準値を守るとすれば、車も人もJヴィレッジから出て来られないほど汚染している。この証言者は別のページで語っている

あまりにも報道されていないことだがIAEAは原子力の専門家ではあるが原子力広報活動のための組織。危険についてはあっさり無視し基準値さえ変えるのだ
(C)鈴木智彦/文藝春秋