玲瓏な舞台が読むものにオリエンタリズムの魔法をかける

小説・エッセイ

2013/4/22

ゴシック名訳集成[暴夜(アラビア)幻想譚] 伝奇ノ匣8

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 学研
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:東雅夫 価格:1,543円

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「アラビアンナイト」、「千一夜物語」、「千夜一夜物語」、呼び方はいろいろあれど、奇書といってこれほどの奇書はあるまい。実にもう奇っ怪にしてまか不可思議、夢幻無比にしてアチャラカパイなんである。

ご存じの通りシンドバットの冒険や、魔神と魔法のランプの物語やら、奇譚が煮こごりになって5Gくらいの重力で本という固形に詰まっているわけだけれど、へんてこなのは構成も一風変わっていて、美姫シエラザードが夜ごとカリフに寝物語を聞かせる大枠があたうえで、さらに彼女が語るストーリーの中の登場人物がまた物語り中物語をおっぱじめるというスタイルとくる。読んでると物語の迷路に入っていくような心地でもしかしたらここから帰れないんじゃないかという妖しい気分にすら陥る寸法になっておる。どこまで追いかけてっても物語、これが『アラビアンナイト』のおもしろさのひとつではあるのだ。

さて、もともとはアラビア語で書かれた説話の膨大な集成であった『アラビアンナイト』は、18世紀のフランスの人アントワーヌ・ガランによって「発見」され、「発見」されと抜かすのもあんまりなヨーロッパの思い上がりだが、とにかく、翻訳されるやその奇想とかぐわしいばかりのオリエンタリズムで人々を驚嘆せしめたのであった。

本書は、その『アラビアンナイト』へのオマージュとして書かれた幻想ファンタジーの傑作や、原典からの翻訳など6作を収めた中短編集だ。古川日出夫が『アラビアの夜の種族』の外伝を寄せているのも嬉しい。

この世ならぬ醜悪な容貌の魔神のせいで、首都に大惨事を引き起こしたカリフが、それでも魔神の魅力に引き立てられて砂漠をどこまでもたずね歩くウィリアム・ベックフォード作 矢野目源一訳『ヴァテック』を筆頭に、不可解千万の出来事が次々と起きる諸作がアタマを並べているわけである。

いやいやそれもそれで凄いが、なんといっても翻訳が魅惑的。漢字で黒々とした各ページは、あるものは旧仮名遣いで、あるものは文語体で玲瓏とつづられ、身も心もアラビアの空に漂うがごとき悦楽を味あわせてくれるんである。

読むといいんである。


6編の作品が収められている

ヴァテックの冒頭だ

文語体はゆっくりと読むとすばらしさがよく分かる

東の解説も詳細である
(C)東雅夫/学研