待ってました! 電子書籍オンリーの小説雑誌がついに登場

公開日:2013/5/1

つんどく! vol.1

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 文藝春秋
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:別册文藝春秋編集部編 価格:199円

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電子書籍のメリットと言えば、嵩張らないこと、そしてどこでも読めること。これが最も実力を発揮するのが雑誌ではないだあろうか。好きな作品が載っているとバックナンバーは捨てられない。どんどん溜まる。思い切って処分するときもリサイクルだ何だとけっこう面倒だ。それに雑誌って、隙間時間にちょこちょこ読みたいのに、持ち歩くのはこれまた面倒。じゃあどうすればいい? 電子でしょ!

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ということで本邦初の電子オンリーの小説雑誌が誕生した。その名も『つんどく!』。指でつんつんして読むところからの命名だそうだ。第1号はミステリ特集ということで、歌野晶午が広島を舞台にした青春ミステリを書いた他は、有栖川有栖の火村&アリスシリーズ、貫井徳郎はハーシュソサエティのシリーズ、東川篤哉は魔法使いマリィのシリーズ、芦辺拓は森江春策シリーズと、人気ベテラン陣がそれぞれの人気シリーズで勝負に出た。加えて青柳碧人、水生大海、円居挽、大山誠一郎といった赤丸急上昇の気鋭たち、久世番子のコミックエッセイも載っている。それだけじゃない、文藝春秋の新人発掘プロジェクトから飛び出した新人7人が全員で競作。これらすべてが書き下ろしってんだからファンは見逃せない。ここでしか読めない短編が端から端まで詰まっている上にすべて読み切り短編。どこから読んでもオールOK。

個別に見るとベテラン陣はもう安定の面白さ。いずれ紙の本でそれぞれの短編集に収まるだろうが、特に貫井作品は今だからこそ読みたい社会性があるし、火村&アリスはなんと漫才師の事件にかかわるぞ。他に目を引いたのは青柳碧人「オーストリア国旗と大水邸餓死事件」と水生大海「運命のひと」。前者はあまり例をみない「地理ミステリ」で、地理の知識や情報が事件を解くヒントになるという変わり種。蘊蓄もたっぷりで読んでいて楽しい。後者はがらりとテイストが変わる。やりたかったプロジェクトに入れなかったヒロインが、同僚にある罠をしかけるというサスペンス。ところがそこから思わぬ展開に。予知夢と殺人事件と“女の策略”をブレンドした逸品だ。

新人7人の競作はどれも個性的で、正統派の謎解きミステリから、青春性愛小説までと幅広い。この中から“お気に入り”を見つける楽しみがある。個人的には上山和音の「走れ、ぱんだ号」が印象的だった。ミステリとしてはシンプルで小粒だが、この登場人物たちともうちょっと付き合ってみたいと思わせる。

電子書籍だとピンとこないが、実はこれ、紙の雑誌にすると普通の小説雑誌の倍くらいボリュームがある。紙だと持ち歩くのもたいへんだし値段もこんなものでは済まないだろう。しかも内容はライトなユーモアものからズンと来る社会派、ドキドキのサスペンスに頭を捻る謎解きと多岐にわたる。タブレットやスマホに入れて、気が向いたときに気が向いた作品を読むには最適だ。移動時間、ランチタイム、待ち時間。ちょっと楽しむのに最適なこの媒体、電子書籍ユーザーなら買って損はない。


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久世番子さんのマンガは『よちよち文藝部』の番外編!

巻末には電子書籍の広告まで! このあたりが雑誌っぽい