【映画公開中】 前のめりに突っ走るサスペンスフルな快感を得よ!

小説・エッセイ

公開日:2013/5/5

藁の楯

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:木内一裕 価格:540円

※最新の価格はストアでご確認ください。

昔、『わらの女』というフランス映画のあったことを思い出した。カトリーヌ・アルレーの同名サスペンス小説が原作になっている。出演はショーン・コネリーとジーナ・ロロブリジーダ。僕のあたまの中ではすっかりジャンヌ・モロー主演で再上映されていたが、幸せな思い違いだった。記憶と現実はどちらが強いのか。

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現在公開中のサスペンスアクション映画『藁の楯』の原作が本書。『ドラゴンクエスト』のアイテムに登場しそうなタイトルだなあと思ってしまった。1万ゴールドもしたくせに竜のひと吹きで燃え尽きるの。

それはそれとして、『藁の楯』の著者は木内一祐。『ビーバップハイスクール』などのコミックでヒットを飛ばす作家にして、エンタメ小説も手がける鬼才といっていいだろう。僕は『キッド』というのと『水の中の犬』というのを前に読んだ。前者は私立探偵の話で、後者はちょっと跳ね返ったオニイチャンがひとつの死体をめぐって命がけの戦いをするというもの。どちらも前のめりの疾走感が心地よかった。

映画は見ていないのでわからないが、小説に関しては本作も同様。ひとつの事件を発端にして、ドミノ式に事態がどんどん大きくなっていき、こういう言い方はどうかとは思うが、大騒ぎなのである。人は大騒ぎが好きである。

清丸が犯して殺した童女は政財界に太いつながりを持つ巨額の資産家・蜷川であった。ある日、三大新聞に前代未聞の一面広告が載る。「この男を殺してください。御礼に10億円差し上げます」国民すべてを刺客化する蜷川のたくらみだった。清丸は潜伏先の福岡で出頭する。5人のspと刑事が選ばれ、清丸を警視庁に護送するなか、一般市民はもちろん、警察官や機動隊までが彼らを襲う。移送ルートは漏れ、ネット上に刻々とマッピングされていく。5人の中に情報提供者がいるとしか思えない。この事態はどのように収まりを見せるのか。あまりにも悲痛なラストが待っている。

サスペンス小説を書くとき、初心者が陥るのは、まず事件を書こうとしてしまう点にある。事件は実は退屈なのだ。殺される、脅される、殴られる、必死に逃げる、これらは即物的な動作であって、読み手の心理に迫ってくることはない。あるいはあってもわずかである。問題は状況だ。主人公の身の回りをどのような剣呑な状況が取り巻き、せっつき、足下を燃やし、やむにやまれぬ行動に駆り立てているか。この状況をリアルに描ければ小説は成功だ。

木内はこの肝心要がうまい。こんな突拍子もない物語を真剣に読ませてしまう筆力はたぶんそこからくる。

清丸を守る警察権力の楯は藁のようでしかない、という意味だね、タイトルは。ドラクエとは全く関係ない、念のため。


幼女殺害の容疑で清丸という男が指名手配される

三大新聞に殺人依頼が一面広告で載った

警視庁内から2人の刑事が選ばれ、清丸の移送警護を命じられる