「オウム真理教」に材をとった3人の孤島生活者の物語

公開日:2013/5/26

ビリーバーズ (1)

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 復刊ドットコム
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:山本直樹 価格:400円

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男2人と女がひとり、孤島で暮らしている。男のひとりは「議長」、もうひとりが「オペレーター」、女は「副議長」とそれぞれ呼び合っている。ときどき小さな船で物資が届くが、それだけでは足りず、魚をとったりの自炊だ。彼らは「ニコニコ人生センター」というおそらくは新興宗教の団体に入信しており、島での活動は「修行」なのだという。次第に物資の届くのがおぼつかなくなっても、「俺たちのことどう思ってんだ」と憤るよりも、「これも修行の一環」と納得して苦しい日々をしのぐ始末。

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と書けば、多くの読み手が新興宗教のことを、とくに「オウム真理教」を思いうかべるのではあるまいか。著者も、「オウム真理教」と連合赤軍関連の本を読んでいて「これは面白い」とインスパイアされたと述べている。

大切なのは、「これは面白い」という言い方である。「これは注目すべきだ」でも「これは考えるに値する」でもなく、「面白い」のだ。

コミックでも映画でも文学でも音楽でも、表現である。表現には批評性があってほしい。批評性とはむずかしい言葉なので、出来事に対する立ち位置、とかいってるともっとややこしくなって豆腐の上をナメクジが這っていくみたいな事態ともなりかねず、物事のほんとうを見極めようとする姿勢、それが批評性だとひとまず言っておく。

ただこの批評性は物事をけなしたり褒めちぎったりするのだけでは足りないので、対象の中に深く入り込もうとする。そうするとニュアンスが生まれてくることになる。汚いといっても丸から汚いわけじゃなく、裏返してみると意外にきれいなところがある、いやむしろ、汚いはずのものをじっと見入ってると実はグロテスクな美を胎内に隠し持っていた。そんな感じである。

このとき表現には微妙なグラデーションができてくるのである。そのグラデーションが「これは面白い」だと私は思ったわけだ。

離れ小島での3人の生活には、嫉妬が生まれたり、思わぬ珍客が乱入してた来たり、思ったよりたくさんの出来事が起きて、そのたびに彼らを覆っている信仰心の不気味さがあぶり出されるのだが、実は信仰心よりも3人を否応なしのところへ追い込んでいく集団のメカニズムが「面白い」。

山本直樹はこの作品のあと「REDS」という連合赤軍の話をモロ描きで描き始める。宗教心でもなく思想でもなく、集団がここの所の彼のテーマなんだろう。


はじめは、3人のビリーバーたちの暮らしは脳天気にすら見える

だがいったん教義となると過剰なまでにヒートする

食べ物の逼迫にウニなど捕って…
(C)山本直樹