“盗聴”や“コンプレックス”を扱いながらも読みやすさ抜群の非日常へのトリップ短編

小説・エッセイ

公開日:2013/5/24

あくむ

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:井上夢人 価格:432円

※最新の価格はストアでご確認ください。

大きな仕事が終わったので、ディスコネクトするためになるべく軽く読める小説を少し。というつもりで購入。作家についても内容についても無知でしたが、表紙の字面にピンときて決めました。

advertisement

表題の「あくむ」というのは1冊にまとめられた短編の総称とでもいうべきもので目次を見ればカタカナオンリー。ひらがなで「あくむ」、カタカナで目次のページを埋めるというところにすでに作者のこだわりがちらり。どの短編も普通の日常が少し変わってゆく、普通の人が少しずつ変わってゆくという設定です。実際小説というのは実は短編のほうが難しいのではないでしょうか。

短い中に起承転結を設定し、早くから読者を引き込んでゆかねばならないというミッション。それをこの短編は見事にクリアしていると思います。盗聴を繰り返している男が、不倫の盗聴をしはじめたことからはまってゆく、だれの何が嘘だかわからない世界「ホワイトノイズ」。大金持ちの家に生まれて互いに対するコンプレックスを抱き合う兄弟。そんな兄の身体に変化が起き始め、狂気へ導いてゆくグロテスクな一編「ゴールデンゲージ」。予知夢が繰り返され、主人公に危険が降り掛かり続ける「インビジブル ドリーム」など。どれも短い中のまとまり、狂気への導入がスマートで読みやすく、秀逸です。

奇特な世界にも関わらず、読後は軽く、嫌な後味を残さないのも、シンプルな文章のせいでしょうか。小さな非日常へのトリップが可能な短編集。軽い気分転換を求める方に最適。面白いです。


カタカナの無機質感が始めの緊張を高めてくれます

「いったい何が本当で何が嘘なのだろう」という1行はこの1冊に共通した感覚

彼女が見る夢が僕の現実になって不幸なことばかり起こり始める