仕事生活結婚子作り…29歳の男女が最後の思春期に揺れ動く!
公開日:2013/6/4
映画をみたり小説を読んだかの様な読後感が味わえる良質な一作。それが本作の『にこたま』です。
『蛇にピアス』のコミカライズを手がけた渡辺ペコさんが送る、29歳の男女の物語はその空気感がとんでもなくリアル! いい年齢(トシ)だけど大人じゃない、仲良しだけど踏み切れない。そんな恋愛と結婚の間でさまよう心情の揺れが、ページをめくるたびに心にプスプスと突き刺さります。仕事、生活、結婚、子作り…彼らが迎える最後の思春期をどうぞご堪能あれ。
ハタチから付き合っている浅尾温子(あっちゃん)と岩城晃平(コーヘー)は交際9年、同棲5年。
「今さ――あたしのカオ見て“年齢とったな――”って思ったでしょ」「なんでわかんの?」「あハハーやっぱりね!」
と以心伝心じみたことも起こる熟年カップルです。女性には禁断の「歳の話題」でさえ笑い話にできる2人の生活は至って良好、順風満帆…かと思いきや! あっちゃんが友人と飲み結婚について思いを巡らせる次のシーンで、コーヘーが体調不良の上司、高野さんに尋ねるのです。
「もしかして 妊娠ですか」「高野さん それって俺の子?」
え、どういうことなの? と読んで目が点になりました。
それまでは軽妙なキャラの掛け合い、テンポ、ほのぼのとした優しい絵柄にのんびりした気持ちで読んでいましたが…この『にこたま』、実は結構シリアスな内容でした! 言うつもりはなかったけれど聞かれてしまったので筋合いとして話し、ひとりで産んで育てると決意している高野さん。かなり動揺してこんがらがるコーヘー。抱えきれなくなったコーヘーにその話を告白され、恋人の裏切りを知るあっちゃん。
三者三様の心模様は乱れて揺れて、一体どう収まるのか想像がつきません。読み進めるに連れてひりひりとした痛みさえ感じさせるような人物描写が一層リアル感を際立たせ、この状態からのハッピーエンドはありえるのかどうか。ハラハラして、続きが買いたくなる。派手派手しい事件は起こりませんが、丁寧な人間造形で読者を引き込む素晴らしい作品です。
ほんの一瞬の視線だけで相手の言いたいことがわかってしまう。何気ない仕草からあっちゃんとコーヘーの熟練カップルぶりがうかがえます
「羊水は腐らないけど 卵子(たまご)は古くなるんだよねぇ」という友人のひとことが強烈。強い結婚願望はもっていないあっちゃんですが、この言葉には思うところがある様子で…
付き合って9年なのに笑顔が絶えない2人に問題など…と思っていたらとんでもない爆弾が炸裂しました。それってどういうことなのコーヘー!
浮気相手を妊娠させちゃったと言うカミングアウトもろもろが、あっちゃんの感情を揺さぶる揺さぶる。芯の強い彼女もさすがに堪えています
(C)渡辺ペコ/講談社