家族でなかった父と娘のロードムービー

小説・エッセイ

2013/6/8

きみ去りしのち

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 文藝春秋
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:重松清 価格:679円

※最新の価格はストアでご確認ください。

重松作品といえば、現代の一般家庭やいわゆる「普通」の人々の生活の中からふとした幸せを感じさせてくれる、そんなイメージがあります。今回も家族のあり方を問い続ける作品。

取り上げられるテーマはどんな家族にも繰り返されるさまざまな形での別れ、そして死。残されたものの長く終わりのないトンネルをゆくような気持ちを、丹念にじっくりと描いてゆきます。

『きみ去りしのち』の「きみ」は1歳を迎えたばかりの我が子。そんな我が子の突然死のあと、主人公セキネは前妻との間にできた子で15歳の明日香と旅に出ます。それまでに親しい交流があったわけではない親子のギクシャクとした旅の始まり。人気観光地とはいえない場所をたずね歩くふたり。親子は恐山に溢れる家族写真とかざぐるまを見、亡き息子を偲んで流氷の海を見に来た老夫婦と出会う。

震災のあった奥尻島へ。出雲ではタクシー運転手からその人生を聞く。仕事の休みを利用しながら娘と続ける1年間の旅の間に明日香の母でありセキネの前妻の美重子のガンは進み、初めての子を亡くした洋子も、心の整理をつけようとそれなりの時間を過ごしてゆく。

様々な形の家族の中に縦横に張り巡らされた毛糸を上手に辿り、少しずつ、固まってこんがらがってしまった毛玉をほぐしてゆくような、そんな感覚の旅です。どの旅も悲しいトーンなので、ともすると読書中何日も実生活もトーンダウンしてしまうかも、というリスクはありますが、誰もが避けては通れない「家族との別れ」を追体験する、しかも完璧な描写の中でどっぷりと浸りながら経験できるのは、読書の醍醐味では。重松作品にしてはやりきれない悲しい物語ですが、おすすめします。


生意気な15歳に育った明日香。そのストレートさにセキネは助けられてゆく

全編通じて泣けます

旅を通じて本当の親子になってゆくふたり