物語をつくってごらん。そうすれば、強くなれるから――

小説・エッセイ

公開日:2013/6/14

ノエル―a story of stories―

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 新潮社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:道尾秀介 価格:1,296円

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現在、就活中の私。「人を感動させるにはどうしたら良いと思う?」とOB訪問先の社員が先輩然として、大風呂敷を広げる。「俺はね、感動させるには『相手の想像を超える』ことが不可欠だと思ってる。だから、いつもお客様の予想以上のものを提案しようと仕事に取り組んでてね…例えば…」。OBのドヤ顔に、私は笑顔を貼付けたまま胸の内で苦笑。口で言うのは容易いが、「相手の想像を超える」仕事等、なかなか成し遂げられるものではない。


 

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人の想像を超える仕事をしている人間といえば、私はひとりしか知らない。道尾秀介氏の作品はどの作品も、人の想像を超える。いい意味で、人の予想を裏切り、読者を驚きや深い感動へといざなう。『ノエル-a story of stories-』もその内のひとつといえるだろう。

不遇な環境に抗うように、絵本作りをする中学生。妹の誕生と祖母の病で不安に陥り、絵本の世界にのめり込む少女。妻を亡くし、生き甲斐を見失った元教師−−−−童話をモチーフとした本作は3つの物語がチェーンストーリーとしてつながっている。大人のファンタジーといったところだろうか。童話が人と人とを繋げ、人生を明るい方向へと導いていく。

物語で生み出される奇跡に心がほのぼのと温まる。残酷な展開を想像しながら読み進めていた自分が少し恥ずかしくなる。物語の端々で感じた「嫌な予感」はいつの間にか洗い流されていく。そんなささやかな裏切りには、慰安があり、救済がある。

物語の力。それを誰よりも信じているのが道尾秀介氏なのだろう。人と人との絆、見えない誰かとの絆を生み出し、感動へを導こうという道尾秀介氏の信念すらこのチェーンストーリーから読み解ける気がした。

純文学ファンはもちろんのこと、普段小説を読まない人にもぜひ手にしてもらいたい1冊。


同窓会に弥生は来るだろうか−−童話作家となるキッカケとなった人、初恋の人を思い出す圭介。(「光の箱」)

新しく生まれる赤ちゃんへの嫉妬に苛まれ、物語の世界に逃げ込む莉子。(「暗がりの子ども」)

最愛の妻の死、そして、「何も生み出せなかった」という虚無感に襲われ、死を臨む、与沢。(「物語の夕暮れ」)

3つのストーリーから生み出される「4つのエピローグ」。人と人との間に絆が生まれ、繋がっていく