最新作が電子化! 辻村深月が描く、故郷の希望とは?
公開日:2013/6/23
私の家の隣の人は、のっぺらぼうだ。気配は感じるのだけど、どうしても顔は思い出せない。確か娘さんは最近までお母さんの腕に抱かれていた気がするのだけど、この間はランドセルを背負っていた。もちろん、名前も知らない。こういうのがきっと都会にありがちの近所付き合いなのだろう。だから、辻村深月最新作『島はぼくらと』の、離島での生活には驚かされた。希薄な近所付き合いしかしていない私は、そんな島での生活に少し憧れる。地域とのつながりは「しがらみ」ではなく、「希望」だ。
本作は、瀬戸内海の冴島を舞台に繰り広げられる島民たちの物語だ。フェリーで本土の学校に通う4人の高校3年生を軸に、人口3000人弱の離島で繰り広げられる人間模様を描いている。
高校を卒業すれば、島の子はほとんど本土に渡る。そのタイムリミットを知っているからこそ、島民たちは島で過ごす時間を大切にしている。例えば島の子育ては特殊だ。島に住む人全員が家族。18歳の旅立ちの日から逆算して島民たちは子育てをする。全員が協力して行ない、赤ん坊のおしめもみんなが変える。親たちは子どもに伝えたい言葉を真摯に投げかけている。母親は旅立ちの日に渡すために、母子手帳に子どもへのメッセージを真っ黒になるほど書き尽くす。
そんな温かい島だからこそ、この島を訪れる人は訳ありだ。故郷から逃れてきたシングルマザー。手紙に導かれて島へやってきたどこか頼りない青年。「幻の脚本」を探す売れない小説家。他人の故郷を再生する仕事をしながら各地を渡り歩いている女性。彼らの生活を17歳の少年少女たちの清らかな視点で見つめる。
本土と島の間に横たわる、近いようで遠い距離。小さな島だからこそ感じる人の温かさや醜さ。人の生。死。そして、いつかは訪れる島からの旅立ち。胸に秘める淡い恋心…。少年少女たちの感情の機微を鮮やかに、そして、美しく描き出していた1冊。都会暮らしに疲れた人へ是非読んでほしい。
島にはいろんな人がいる。Iターンで来る人にもいろんな人がいるようだ
島には「幻の脚本」があるらしい。その存在を知らない少年少女たち
母子手帳には母親からのメッセージがたくさん込められている
みんなが子育てに協力的な環境ではあるが、島には病院がない。病の恐怖におびえることも
来年は島から旅立たねばならない。その寂しさや切なさ。17歳の葛藤が美しく描かれている
(C)辻村深月/講談社