エロく賢くたくましく! 悪女なニューヒロイン、片田舎に参上!

小説・エッセイ

更新日:2013/6/24

噂の女

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 新潮社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:奥田英朗 価格:1,296円

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体がボーリングのピンみたいにうねっとして、唇が厚くて、男好きな妖艶な女。そして短大デビュー。うわ、いるなーと思いました。敵だなー、いかにも地元で噂になるような。でも、この『噂の女』は違ったんですね。最後まで読んで分かりました。訂正します。こんなとんでもなくワルーイ女は「いません!!」と。

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私の中に突如出現したニューヒロインにどう感想を抱いたら良いか分からず、読後はしばらく放心状態。ちょっとたって、もう一度タイトルを見て、思わず吹き出してしまいました。なんか、超面白いじゃん!! 痛快すぎるヒロインになぜか心が奪われます。

         

舞台は地方のどこか、せまい都市。地方ならではのしがらみに悩まされながらも、とりあえずなんとか生きていく住民たち。そんな彼らの目の前に現れたのが本作のヒロイン、糸井美幸です。アルバイト生活のくせして高級車を颯爽と運転する彼女。妙に色気があり、男あしらいがうますぎる彼女。いかにも怪しいんです。人々は当然噂します。「あの女、絶対ヤッとるぞ!」しかし、さすが奥田英朗の新ミューズ。ヤッとるどころじゃない。人々の想像の範疇を軽々と飛び越え、さらっとした顔で次から次へと手に入れる地位と金。それに伴い、とんでもない悪事の片鱗が見え隠れします。たった5年の間に、中古車販売店のアルバイトから見事、金持ちの未亡人兼高級スナックのママへと変身を遂げた彼女の正体は誰にも分からず。欲望、妬み、憎しみ、憧れ…。彼女の足元では、絶えず人々の感情が入り乱れます。

本作は10篇からなる連作の長編。ヒロインといえど、「糸井美幸」が語り手となることはありません。10篇それぞれに中心となる人物が描かれ、彼らはきまって美幸の噂を聞きつけます。あくまで美幸は「噂の女」なのです。そして本作の読みどころは、実はこの平凡な住民たちにもあります。しがらみはなくなることなく、小さなことでごちゃごちゃと揉め、人間らしい醜さがつい垣間見えてしまう。そこには、奥田英朗独特のユーモアが全開です。

普段から様々なしがらみにがんじがらめになりつつある私にはとにかく、この下世話感が有難い。本当に疲れるし、私くらいの年(19歳)だとつい恰好つけたがってしまうんです。だからこそ、こういった作品を読んでいると、とっても力が抜けます。あ、私より卑小なやつらがいる、まだましかもって(この考えがすでに卑小)。糸井美幸という悪女は欲望の赴くままに、しかしたいへん上品に悪事を働くのがいい。その思い切りは信じられないけど、爽快で、つい応援したくなってしまいます。気負うことなく、力を抜いて楽しめる、最高の作品です。笑いたいとき、もやもやするとき、暇なときなどにお勧めですよ!


麻雀荘でアルバイトする美幸。いつも男たちに「やりまくっとる」と噂されます

料理教室でボスとなりクレームをつける美幸。羨望の的です

美幸に容疑をかける刑事でさえこのありさま

我が道をゆく美幸は、田舎の女にとってみればヒーローみたいなもの
(C)奥田英朗/新潮社