亀梨和也が33人のオレ(ワタシ)を演じる衝撃シネマ『俺俺』の原作本

小説・エッセイ

2013/6/25

俺俺

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 新潮社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:星野智幸 価格:659円

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同じ顔に、同じ好み、考え方や価値観まで今の自分とそっくりおんなじ。ある日、自分が増殖して、世界が自分だらけになってしまったら、あなたは一体どうしますか?

『俺俺』は月刊誌『新潮』に連載され、2011年第5回大江健三郎賞を受賞した作品です。家電量販店で働き平凡な毎日を送る28歳の「俺」が、ほんの出来心でオレオレサギを働いたことをきっかけに何かがゆがみ始め、重層的な無限の俺俺パラレルワールドにからめとられてゆく、ブラックでトリッキーなストーリー。「俺」が増殖してゆく展開はシュールでいながらちょっぴりコミカル。3人の「俺」が出会い、なまぬるい自己愛ワールド「俺山」を結成するあたりまでは面白く読み進めることができました。他者との違和感に生きづらさを感じる20代男子にとって、「他者を排除した、自分だけしかいない気楽な世界」は、自由に呼吸できるパラダイスの象徴なのかもしれません。

しかし「俺ら」の意識にある種のパラダイムシフトがおとずれたことで、愛しくもキッチュな俺ワールドはあっさり崩壊。同じ「俺」でも、「許せない俺」が存在することへの気づきから、血なまぐさい共喰いの様相を呈してゆきます。

人々の意見がある方向のみに傾斜することを、社会心理学の用語で「同調現象」と呼びます。異論は歓迎されず、異論の持ち主は最終的に個人攻撃により排除され、「同調圧力」という沈黙を強制されます。『俺俺』の中では、増殖してゆく「俺」同士が過剰なまでに自己を見つめ続けた結果、異物を許さず互いを見張り合い、その過度なストレスにさらされるうちに疑心暗鬼となり、互いを「削除」し合うバトル・ロワイヤルに突入するのです。その果てにたどりつく世界は、いかなるものなのでしょうか?

原作を読み終わるや否や、映画館へダッシュしました。そこではまた別の『俺俺』ワールドが展開されていました。増殖した「俺」をビジュアルで確認できる、視覚的な面白さ。原作に比べてかなり説明不足な部分は否めませんが、この作品の場合はやはりCGによる合成技術や、後半の有無を言わさぬジェットコースター的展開の乱闘シーンに圧倒されます(亀梨くんだらけ)。個人的にはエンドロールの、33人分の増殖した「俺」の役名×亀梨くんのクレジットが固まりでどーんとやってきた瞬間もツボに入りました。

ちなみに原作と映画では、迷宮の果ての出口とそこにたどりつくプロセスが微妙に違います。見てから読むか、読んでから見るのか。読んでから見ればもちろん楽しめます。しかし読まずに見ても楽しめますが、おそらくあとで原作が読みたくなってしまうのは、間違いないかと思われます。


いつものマックで隣に座った赤の他人が「俺」のトレイに携帯を置き間違えた。その携帯を勝手に使ったことから、「俺」は悪夢のパラレルワールドに

「俺」は絶えず「俺」でいなければならない。生きている間中そんなことをしていたら気が狂うからと、ひとりの時間をつくっては、スイッチをオフにしていた「俺」。それだけに、「俺山」でのひとときに限りない心安さを感じてしまう

「俺ではない俺、俺としての俺、俺たち俺俺。俺でありすぎてしっちゃかめっちゃか、もう何が何だかわからない」というくだり、面白くてつい何度も読んでしまいました
(C)星野智幸/新潮社