キャリアポルノは凡人の味方! 無駄がないと生きていけない!

公開日:2013/7/4

キャリアポルノは人生の無駄だ

ハード : iPhone/iPad/Android 発売元 : 朝日新聞出版
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:Kindleストア
著者名:谷本真由美 価格:※ストアでご確認ください

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「キャリアポルノ」と聞いて、「ポルノ」というワードに引っ張られ少し如何わしいものを想像をしたが、力の入り過ぎた私の指先への期待はあっという間に裏切られることとなった。「キャリアポルノ」とは、一般的に自己啓発本と呼ばれる類のものを指し、実際の行動に繋がらず、見ているだけで満足するようなものという意味を込められた筆者による造語である。筆者は日本の書店で、自己啓発本がずらっと並ぶその現象と自己啓発本の意味・役割について疑問を呈す。先に述べたキャリアポルノという表現に含まれる、「見ているだけ」という意味合いに筆者の立場が実によく表れている。

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自己啓発本でぱっと思い付くのは「3秒で相手の心を掴む方法」であるとか、「読むだけで部屋が綺麗に片付けられる!」「一流営業マンが実践している10個のこと」とか、そんなタイトルである。電車の中に貼られている広告や新聞の広告欄でやたらと目にするのではないだろうか。胡散臭さと嫌悪感しか感じないのだが、10万部突破! 増版決定! みたいなことが併せて書いてあるものだから、どんな人が手に取るのか不思議で仕方なかった。

私は自己啓発本というものを好んで読んだことがないし、私の周りにも読んでいる人はいない……と思っていた。それはつい最近まで私が学生だったせいもあり、まだ自己啓発本のターゲットではなかったのかもしれなく、社会人となり働くようになるとちらほらと会社のデスクの上にそれらが何冊も置かれているのを目にするようになった。しかも、ひとりの人が何冊も読んでいるのだ。

「モテる髪型」みたいな雑誌は買うのを躊躇うくせに、「デキる人になる」みたいな本は平気で買えてしまうのは、ちっとも理解できなかったが、著者が彼らにとってはそれがビジネス書のような感覚で、勉強している、向上心・意識が高いと思い込んでいるからというのを読んで一気に腑に落ちた。また、驚くほどにそういう本を読んでいる人達が仕事が出来ないのは既に目の当たりにしている。その本を読んでて、これ?読まなかったらもっと酷いの? と深読みしたくなるような人ばかりだ。そう簡単に人は変われない。きっと本に書かれているような内容を今まで色んな人から指摘されてきているはずなのだ。

著者は日本で自己啓発本が飛ぶように売れてしまう一因として、日本の採用方針を挙げている。一度職を失えば再就職は難しく、なんとか会社から見放されないように仕事が出来るようにならなくてはいけないという強迫観念を持つ故の行動であるというのだ。確かに実際、自身のブラッシュアップができるような時間も環境も少ないのが現状で、だからこそ安易に自己啓発本へ手を伸ばしてしまうらしい。だとすれば、自己啓発本の売れ行きは仕事への熱意や向上心ではなく、将来への不安とそれを解消する術を失った日本のシステムによる被害者の増加を示しているのだと考えられるし、成功した人が書く自己啓発本で、美味しい思いができるのはやっぱりその本の著者だけなのだから、本当に救われない。

キャリアポルノは人生の無駄だ、と。目を覚ましなよ、と。そう簡単に言ってしまえるのも結局は自分に自信のある成功した一握りの人で、凡人は嘘でもいい夢見ていたいと思ってしまう。ダメな自分を変えれる(ように感じさせてくれる)イリュージョン。もっと人生を謳歌する(ような気分になれる)おまじない。そんな風に日々色んな手を使い自分を納得させているのが、実際の私たちであるように思う。そして程度が行きすぎると、ふと自己啓発本などにも手を染める。本気で変われる・変わりたいなんて思っているわけではないのだろう。そう考えると、その行為への批判自体が意味を持たない気がしてくるのだった。私自身、自己啓発本の氾濫に対しては批判的な立場でいたいのに、一種の「キャリアポルノ」と言えるようなこの本をこうして手にとってしまったところをみると、至って私も凡人であるらしいのだ。


自己啓発本の辞書的な意味

非正規社員の不安を取り除いてあげるのも自己啓発本なのだ

競争好きなのか、競争を強いられているのか

まだ未就業の高校生でさえ、仕事と将来に幸せを描けない日本