新たなるいくえみ男子の台頭! 売れない役者系とかいかがですか…?

2013/7/5

トーチソング・エコロジー (1)

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 幻冬舎コミックス
ジャンル:コミック 購入元:BookLive!
著者名:いくえみ綾 価格:600円

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中3の受験時、逃げるように通ったのが塾の近くにあるブック・オフで、私はそこでたくさんの財産を得た、と思う。「逃げたい」という思いは、自然と人に良作を選ばせるらしい。大好きなマンガ家、いくえみ綾さんの作品と出会えたのもその時で、それらは私を、汗臭い、うさんくさい、面倒くさい受験の世界から、ほんの一瞬救ってくれた。

今回紹介する『トーチソング・エコロジー』の主人公は、私たちと同じ、汗臭い、うさんくさい、面倒くさい世界に生きる「売れない役者」のビンボー男だ。汚い身なりで小さなアパートに住み、たまに訪れるのは「売れない役者」仲間のちょっとやさぐれた女の子。恋愛する気配は微塵もない。この時点で私、あちゃーと思った。自分の未来と重ねられた。私は今役者を目指して修行中の身だから、今は大学生の肩書があるけれど、一歩間違えれば彼と同じ境遇。ふんふん、いくえみ綾さんは売れない俳優時代なんて絶対通って生きていないはずなのに、いやよく分かる、よく分かる。

そして、そんな「売れない」主人公のお隣に、ちょっとした美人さんが越してきた。引っ越し挨拶の品はじゃがいも。彼女は偶然、かつての同級生だったのだけれど、あまりの変貌ぶりに主人公、ちょっとびっくりしてしまう。彼女は、当時の主人公の親友にストーカーのごとく付きまとう告り魔だったのだ。美人でもなかった。今は歌手をやってるらしい。さらに彼女の後ろには、いつも小さな女の子が見えた。彼女には見えない、つまり霊のようなもの。気になる主人公ではあったが、どうすることもできず、なんとなく彼女と仲良くなって、歌なんか聞きにいったりする。一見ゆるやかに見えた展開はその後、霊との交渉あり、事件あり、主人公突然の大抜擢ありで飽きる暇もない。衝撃の連続。

しかし面白いのが、そこで話や主人公のテンションが上がっていかないことである。怒涛の展開に読者が置いて行かれることはなく、なんとなくゆるっとした空気を保っている。その上ちょっとした日常の機微なんかも秀逸に描かれていて、なんてことないシーンに心が奪われた。本作は、非常に様々な可能性を秘めている。主人公のサクセスストリーになるのだろうか。はたまた霊体験話? 恋愛なの? 日常ほのぼの? いやもしかしたら…。いずれにせよ、期待できることは間違いない。

表紙が男2人で色気がないし、主人公の肩書は売れない役者だしで、ちょっと手に取りにくいなあ、なんて思わず、騙されたつもりで1巻、ぜひ読んでほしい。すっっっごく、面白いんだから。少なくとも私には、今なお汗臭い日常から一瞬でも逃れることができた、この本に出会ったことはやっぱり財産といえる作品であった。


例の表紙

この無精ひげが主人公です

ああ、なんて可哀想な主人公
(C)いくえみ綾/幻冬舎