今月のプラチナ本 2013年8月号『島はぼくらと』 辻村深月

今月のプラチナ本

更新日:2013/7/30

島はぼくらと

ハード : 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:辻村深月 価格:1,620円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『島はぼくらと』 辻村深月

●あらすじ●

瀬戸内海の小さな島、冴島(さえじま)。人口3000人弱のこの島には高校はなく、子どもたちは中学を卒業すると同時にフェリーで本土の高校に通っている。母と祖母の女三代で暮らす伸びやかな少女・朱里(あかり)、美人でオシャレで気が強い網元の一人娘・衣花(きぬか) 、2歳の頃、父と一緒に東京からやってきた源樹(げんき)、熱心な演劇部員なのになかなか練習に参加できない新(あらた)。同じ高校に通う同級生の4人は、ある日フェリーで「幻の脚本」を探しているという謎の男に出会い──。島を訪れる者、Iターンで島に住み着いた者、島で生まれ島を背負っていく者、島を去っていく者……。17歳、一緒にすごせる最後の夏に、朱里、衣花、源樹、新が知った大切なこととは──。辻村深月が描く直木賞受賞後第1作は、切なくてまぶしい小さな故郷の物語。

つじむら・みづき●1980年2月29日生まれ。山梨県出身。千葉大学教育学部卒業。2004年に『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。『ツナグ』(新潮社)で第32回吉川英治文学新人賞、『鍵のない夢を見る』(文藝春秋)で第147回直木三十五賞を受賞。他の著作に『子どもたちは夜と遊ぶ』『凍りのくじら』『ぼくのメジャースプーン』『スロウハイツの神様』『名前探しの放課後』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』(以上、講談社)、『本日は大安なり』(角川書店)、『オーダーメイド殺人クラブ』(集英社)、『水底フェスタ』(文藝春秋)などがある。

講談社 1575円
写真=首藤幹夫 

編集部寸評

 

出ていく/帰る場所を持つ意味

このカバー! タイトルと五十嵐大介さんの装画を見ただけで胸が高鳴った。私は東京近郊のベッドタウンで生まれ育ち、電車で1時間の東京に“出る”というほどの意識もなく引っ越して、逆に仕事を引退した両親は田舎へ住まいを移した。生まれ育った場所には、誰もいないのだ。だから島という、出ていく/帰る場所を持つ少年少女のことが、たまらなくまぶしい。もちろん彼らにも痛みや悩みがあることは間違いないし、島を“枠”や“しばり”ととらえれば閉塞感も生まれるだろう。だがだからこそ、出ていくことには多大な葛藤とエネルギーが必要だし、帰ることにはプラスにせよマイナスにせよ大きな意味がある。その圧倒的な濃密さを描くにあたって、本書がすばらしいのは、人の明るさ・しなやかさを信頼していることだ。能天気な性善説ではなく、さまざまな負の感情も知ったうえで、でも人間の強さを信じる。それは著者自身の強さでもあるのだろう。

関口靖彦本誌編集長。自分が毎年のように波照間島を訪れる理由の一端に、触れられた気がします。島では飲酒と昼寝ばかりで、青春のきらめきとはほど遠い有り様ですが

 

「島で暮らす」ということ

4人の高校生の目を通して描かれる島暮らし。彼らの感動的な成長物語でもあると同時に、島という共同体の成り立ちやそこでの人々の生活の様子が活写されていて、ノンフィクションを読んでいるかのようなリアルさがあった。主人公たちは高校生でありながらフェリー通いという不便さもあって、学生生活よりも大人たちに混じって「島」のさまざまなよしなしごとに奔走しているようにも見える。そうしたなかで社会性が身につき、島を出て行くときもそれなりに世間がわかるようになるのだろう。本書に登場する女性として、島に居場所を求めてIターンしたシングルマザーの蕗子、地域活性デザイナーのヨシノ、『さえじま』の社長の朱里の母が印象的だが、それは優しくて強い「冴島」そのものの象徴のようにも思える。読む人の立場や年代によって受け取るものがかなり違ってくるストーリー。後半、辻村ファンなら胸が躍る仕掛も用意されている。

稲子美砂文庫版『ロマンスドール』が発売に。解説を書いてくださったのは著者のタナダユキ監督と夫婦役を演じたこともあるというみうらじゅんさん。愛満載で泣けます

 

ミステリーのDNAを抱えて

辻村深月は10代女子の理解者であり憧れの作家であることは周知の事実だろう。実際、彼女の書く世界の舞台は学校であり、親子であり、身近な切っても切れない閉塞感がテーマの物語が多い。今回の作品は、島という閉塞空間に暮らす子どもたちの青春物語であり、彼女彼らの成長譚だ。インタビューでは「北風と太陽のお話のように」と言っていたが、今までの小説と逆のアプローチで書いてみたら、今まで以上によりしなやかでより強い物語になった、と。子育てを経験し、ひとまわり世界が広がった辻村氏は、実に伸びやかな“生”を描いた。そしてもうひとつ決して忘れてはいけないこと。それは彼女がミステリー作家であることだ。本作品にも、冒頭に謎解きの要素が提示され、その謎はラストまで不穏な低音を響かせ続けていく。エンターテインメント作品として超一流の作品にしあがった本作、早くも今年のナンバー1確実。すべての年代の男女にイチオシです!

岸本亜紀女子向け文芸誌『Mei(冥)』編集長。『幽』19号発売中。お能と怪談の関わりがよくわかります。『もっともっと 視えるんです。』伊藤三巳華、8月出版決定!

 

誰もにおすすめしたい傑作!

地方に暮らす人たちの鬱屈や女の暗部などを描くことを得意としてきた辻村さんだが、本作では、同じ地方でも、小さな島に暮らす人々の、のびやかさやたくましさを描いており、読後感も実に爽快。高校生たちの純真さは若さかもしれないが、人によっては中学卒業後すぐに島を離れなくてはならない環境に生きる彼らは、家族や友人との別れを避けることができない。別れのときを知っているからこそ、いまこの瞬間と周りの人を慈しむことができる彼らは、都会に暮らす私たちより、生きることに真っ直ぐに向き合っているのではないかと思った。また、人が人に見せない隠れた暗部を詳細に描けるということは、その人自身も気づかないような、本質的なやさしさや純粋さも感じることができるということ。島の大人たちの割り切れない関係や、一人の人間の内にある善良さと邪悪さ。その両方を真っ直ぐに見つめる高校生たちの瞳は、作家の瞳でもあると思った。

服部美穂本屋さん特集で、全国の街の本屋さんのドラマにとても勇気づけられました。今回たくさんの方にご協力頂きました。本当にありがとうございました!!

 

さわやかすっきり!

あぁ、島に行きたい! 離島とよばれる島々には、おおらかな人々がゆったり流れる時間の中で暮らしている、というイメージを個人的に持っている。そして少なからず排他的であると。自然の中で暮らすことは過酷だ。だからこそ深く繋がらなくてはならない。本土の高校に通う冴島の高校生たち。来ては去ってゆくIターン者との交流や、自分たちの島を見つめる視線、どんどん世界を広げてゆく多感な彼らがみずみずしい。いまの季節にぴったりな清涼感あふれる青春小説。

似田貝大介怪談専門誌『幽』19号が発売中。今回は能楽の特集です。次号『ダ・ヴィンチ』では、稲川淳二さんが贈る怖い話を特集!

 

あの頃の気持ちがここに

本作の舞台・冴島には、さまざまなドラマが交錯する。離島での穏やかな生活、Iターン者が抱える揺らぎ、島に生まれ島で生きる人たちのいろんな想い。そこにある、土地に根付く力を感じた。この島に暮らす朱里たちもまた、防風林のごとく、「いま」をしっかり受け止めながら生きる力を身に付けていく。少し早い決断をするために、島の子どもたちは少し早く大人になるのだ。これはあらゆる世代に届けられた青春小説でもある。17歳の自分を重ねながら、そう思った。

重信裕加友人から、あの特有のしぐさを指摘され、ついに老眼鏡デビュー。本を読む速度がアップしたのは嬉しいけど、気持ちは複雑……

 

これからを見守りたくなる

朱里と衣花、二人の女の子が、すっごくいい。かわいすぎる。制服にグラサンというミスマッチまでおしゃれにみせてしまう華やかで美しい衣花が好きな朱里。朱里の純粋さを宝物のように思っている衣花。二人は友情を育みつつ、自分にとって何が大切なのかを考え、将来につなげていく。自分に何ができるのか、何をやるべきかを見据えて職業を選んだ彼女たち。こんなふうに自分の今後を考えられるのは、本当に大人だ。幸せに暮らす彼女たちの後日談が読みたい。

鎌野静華「オードリー若林の真社会人」、今月は連載書籍化について、若林さんの感想文的内容。特別に2ページで掲載します!

 

辻村さんはほんとうにすごい

辻村作品は、人がどうしても抱いてしまう悪意や地方の閉塞感を描くのが上手い、そこが好きと思っていた。だが本書は、これまでと異なる方向性で書かれたという。あらそうなの……という気持ちで読み始めたが、すみません、すばらしかったです。何度も落涙。爽やかで、でも決してきれいごとだけではない。4人がそれぞれに素敵で、衣花のラストの姿に、島を、彼女たちをますます応援したくなった。あたたかな光が沁みるような、読んでよかったと心から思える小説。

岩橋真実辻村さん『名前探しの放課後』を初めて読んだときの衝撃は忘れられません。未読の方はぜひ。『有川浩の高知案内』重版しました

 

故郷をもつすべての人へ

ドラマもメッセージも盛りだくさんなのにすらすら読み進めることができ、読み終えたときに改めてその技巧に愕然とした。とくに印象に残っているのはヨシノの仕事ぶり。今春に瀬戸内にある図書館のない町を取材したとき、本を通じて地域をデザインしようと取り組む方と出会ったが、彼はまさに本の世界のヨシノであり、彼の熱意は実際にその町を変えようとしていた。本作は爽やかな青春小説である以上に、故郷をもつすべての人を勇気づける応援歌だと思う。

川戸崇央今月の「走れ!トロイカ学習帳」は宮脇書店をめぐる四国一周旅企画。特集にからめた出張版=カラー! 本誌180PへGO!

 

反射する光のようにまぶしい一冊

主人公は瀬戸内海の小さな島で暮らす、たった4人の高校生たち。といっても、ありがちな高校生の青春ストーリーではない。「島暮らし」だからこそ、彼らには周囲の「大人」との関わりが濃密にあるのだ。都会育ちの私にとっては、それを煩わしくも感じるし、羨ましくも思う。「島」だからこその空気感、その土地で暮らす人々の優しさと強さを思う存分感じられた。そして何といってもラストが爽快で、素敵。海に反射する光のように、キラキラしている一冊だ。

村井有紀子星野源さんの連載ですが、来月号から暫くお休みさせていただきます。星野さん、ゆっくり休んでまた元気な笑顔を見せてください!

 

希望にあふれた島小説

同じく瀬戸内の離島で生まれ育った私にとって『島はぼくらと』は共感と、発見の連続だった。辻村さんの丹念な取材で描かれる島の事情はとてもリアル。一方、17歳で島の子を送り出す親の覚悟なんて考えたこともなかった。外の目から見ると、島には特徴があふれていたことにびっくり。私の島は母子手帳を渡す習慣も、外の若い人がどんどんIターンしてくる土壌もない。だけど、いつかこの本みたいにキラキラした希望であふれてほしい。元気づけられる本だった。

亀田早希文庫『おじゃみ』と『死神は招くよ』絶賛発売中です。著者の地元の京都と長野で、書店さんが頑張ってくださっています!

 

 

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