【第149回直木賞受賞作『ホテルローヤル』(桜木紫乃)】主人公はホテル──巻き戻る時間と、つながるドラマ

小説・エッセイ

2013/7/14

ホテルローヤル

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 集英社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:桜木紫乃 価格:1,131円

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北海道の東部。地方の小さな町にあるラブホテル「ホテル・ローヤル」。これはそのホテルを訪れた人たちをオムニバス形式で描いた連作短編集だ。だがそれだけではない。興味深い趣向がある。本書はぜひ掲載順に読んでいただきたい。

第1話「シャッターチャンス」は、あるカップルがヌード写真を撮影するためにこのホテルを訪れる。この時点のホテルローヤルは廃墟だ。カップルは廃墟を撮影場所に選んだのである。それが第2話「本日開店」には、そのホテルローヤルの経営者が亡くなったという話が出てくる。そして第3話「えっち屋」は、そのホテルローヤルが廃業するため、業者が備品の引取に来るという物語。つまり本書は、廃墟のホテルから始まり、徐々に時代が遡っていくわけだ。これが、面白い。

第4話「バブルバス」は、そのホテルに客としてやってきたある夫婦の物語。ここまでに、このホテルの経営が傾いた理由は心中があったからだという話がときどき出てくるが、その心中に至る顛末が語られるのが第5話「せんせぇ」だ。第6話「星を見ていた」はホテルローヤルで働く掃除婦の物語。そして最終話「ギフト」は、まさにこのホテルが誕生するときの話である。

物語は少しずつリンクする──というよりも「前に出た話はこれのことか」という繋がりがあって、ひとつのホテルでどんなドラマがあり、時代がどう変わっていったのかが見えて興味深い。雑誌掲載の順序は必ずしもこの通りではなく(かと言って時系列通りだったわけでもない)、「本日開店」は単行本のための書き下ろしなので、1冊の本にするために敢えて逆順に順序を入れ替えたことになる。時系列に沿って徐々に傾いていくホテルを描くよりも、この方が圧倒的に喪失感と無常観が強い。「ギフト」で、さあラブホテルをやるぞと気炎を上げる経営者を見たとき、その事業の先を既に読者は知っているのだから。

それぞれのドラマに登場するのは、その地元に暮らす、それぞれに事情や背景を持った人々である。個々の物語も官能的で読み応えがあるが、しかし本書の本当の主人公は、人々ではなく、ホテルローヤルという場所そのものだ。人々の「一瞬」が数多く通り過ぎたホテルの「一生」が、ここには存在するのである。


収録作はこの7作。「本日開店」は書き下ろし