【直木賞候補作―(宮内悠介)】 衝撃的な手法で描いた、ディストピアの希望と祈り

小説・エッセイ

2013/7/15

ヨハネスブルグの天使たち

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 早川書房
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:宮内悠介 価格:1,458円

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デビューから2作連続で直木賞候補入り。今ジャンル内外両方から最も注目されているSFの書き手と言っていい。今回の舞台は架空の近未来だ。

収録作はそれぞれ、人種対立が強まる南アフリカのヨハネスブルグ、ツインタワーが崩壊するニューヨーク、紛争中のアフガン、イエメン、そして東京が舞台になっている。どこも紛争、内戦、テロなどなど、人種や宗教の対立構造が膨れ上がりカタストロフも近いと思わせる不穏な状態だ。徹頭徹尾、ハードで残酷な世界。その世界で暮らす若者、あるいは兵士。展開されるディストピアに共通するのは、人格をコピーできる人間型ロボットDX9と、種子と呼ばれる感染兵器だ。DX9は、本来は歌を歌うホビーロボットとして日本で製作されたという設定である。

荒れ果てた町の中で、DX9の自動落下実験が延々と繰り返される場面が圧巻。ヨハネスブルグの廃墟の間に、ニューヨークの摩天楼に、東京の団地に、毎日繰り返される大量の人間型ロボットの落下。落とされたDX9はまた集められ、また階上へ運ばれ、そしてまた落とされる。昨日も今日も明日も。「ヨハネスブルグの天使たち」ではその中の一体を救おうとする青年が登場する。「北東京の子供たち」には、DX9の無限地獄を止めようとする子供たちが描かれる。それはさながら、何かに抵抗しつつも空回りを続ける我々の姿に重なる。

近未来なら、架空の世界なら、いくらでも幸せな設定にできそうなものだ。けれどここに書かれるのはハードなディストピア。しかもそのディストピアは、あきらかに現実の、現在の世界とつながっている。人種や宗教の対立がすべて解消される未来より、その対立がいつになってもやまない世界の方がよりリアルである、ということの恐怖。何度も悲劇を繰り返しながら、それでも止まなかった争い。それは何度も落とされながら、また今日も明日も落とされるホビーロボットの落下実験そのものだ。けれどそこで、あきらめずに前進しようと足掻く登場人物たちこそ、著者が伝えたかった希望なのではないか。落とされても忘れられても歌い続けるDX9こそ、著者が書きたかった祈りなのではないか。

もしかしたらこれを読んだときの衝撃は、私がSFというジャンルのプロパーではないがゆえかもしれない。私の感想は的外れで、SFの世界ではまた違った評価軸で語られているのかもしれない、という心配はある。けれどジャンルの物差しを知らずとも、示唆に満ちた物語として、またはディストピア小説として、あるいは祈りの物語として本書を味わうのに不都合はない。むしろこの衝撃は非プロパーの読者にとって、SFという豊饒な世界への扉にすらなり得るのではないだろうか。


収録作はこの5作

第2話は文献の引用が多い。引用個所末尾の数字をタップすると……

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(C)宮内悠介/早川書房