【直木賞候補作―(恩田陸)】鳥肌立ちっぱなし! 超能力で大量殺戮!?

小説・エッセイ

2013/7/17

夜の底は柔らかな幻(上)

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 文藝春秋
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:恩田陸 価格:1,440円

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「智恵子は見えないものを見、聞えないものを聞く。」「わたしをよぶ声をしきりにきくが、智恵子はもう人間界の切符を持たない。」高村光太郎は晩年の妻の様子をこんな風に詠っている。一番身近であるはずの妻の異変に、彼は言い知れぬ恐怖を覚えたことだろう。だが、彼以上の苦しみを彼女も味わったに違いない。急に幻覚が見え始めたが、私は病気なのだろうか。これは夢なのか、現実なのか。私はどうなってしまうのか。他の人には理解し得ない苦悩ほど、辛いものはない。

この本の登場人物たちもある意味で「見えないものを見、聞えないものを聞」いてしまっている。それは、普通の人とは異なる特殊な能力を得てしまったためなのだが、どんなカリスマ的な力の使い手であろうと、自分の病に気づき始めた智恵子と同じように、陰では強い苦悩を覚えている。異常な能力を発揮し、時には残酷でありながらも、思い悩む人間らしい一面も持った登場人物たちに強いリアリティを感じた。

『夜の底は柔らかな幻』は恩田陸の長編小説だ。上下巻に分かれた大作で直木賞候補作にもなっている。フランシス・F・コッポラ監督の「地獄の黙示録」をイメージしたというのも納得のホラーファンタジーである。

物語の舞台は、日本から切り離され、多くの犯罪者たちが逃げ込む治外法権の地「途鎖 (とさ) 」。この地には、昔から「イロ」という特殊能力を持つ者が多く存在していた。「イロ」を持つ者の一部には強い嗜虐性が見られるという。例えば、手を触れることなく人間を窒息させたり、空中でボールのように丸めたりする等の殺人を犯すとして世界的に問題になっていた。自らも途鎖出身であり、「イロ」を持つ実邦は、途鎖での忌まわしい記憶を消すかのように東京で暮らしていた。だが、数々のテロ事件を引き起こした凶悪犯を追い、故郷に戻ることになる。時は先祖を弔うために人々が山へ入る「闇月」。山は「イロ」の力を強くする危ない場所として知られているが、実邦は仲間とともにそこへと立ち入ることを決意する。しかし、そこでは、「イロ」を用いた問答無用の殺し合いが繰り広げられていた……。

最初の何ページかは耳慣れない言葉が続き戸惑うが、先を読まずには居られない展開に手に汗握る。徐々に「途鎖」の世界観やルールが明らかになってくると益々面白い。妖しく輝く水晶の谷、首から上のない女、骨を折られボールのように丸められた鹿の屍、群がるハエ。一気に逃げ出す鳥の大群、生き物のようにうねる吊り橋…。血で血を洗う凄まじい殺戮に鳥肌が立ちっぱなし。だが、すっかり不気味な世界の虜になってしまい、あっという間にページを捲っている自分もいる。「途鎖」で自分も実邦とともに戦っているような錯覚を覚える。

実邦は無事生き残ることが出来るのか? 「イロ」を持つ者の狂乱の宴を終わらせるのは誰か? 途鎖の山でかつて起こった事件の真実とは? 圧倒的なこのスケールは、映像化不可能?! 本だからこそ楽しめるこのスリルをぜひ貴方にも味わってほしい。


開始早々からスリリングな展開(上)

いきなり入国管理局や警察にご厄介になる(上)

不気味な幽霊(上)

怒りに震える実邦。無事彼をしとめることはできるのか?(下)

鳥肌立ちっぱなし。究極のホラーファンタジーを読まないわけにいかないだろう(下)