ネットを読み漁るようなおもしろさ。今も昔も変わらない、男女のゴシップ記事小説

小説・エッセイ

公開日:2011/10/2

三面記事の男と女

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : KADOKAWA
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:松本清張 価格:540円

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噂話なんて低俗。みっともないし、品がない。
わかっていても、やめられないのがゴシップというもの。
「他人の不幸は蜜の味」とはよく言ったもので、泥沼だったり狂喜じみていたりするほどそそられて、気になってしまう。「ひどい話だ」「なんて非常識な」と眉をひそめても、心の底で「もっとやれ!」と思う気持ちは誰しも持っているんじゃないでしょうか?
とはいえ、巻き込まれるのは真っ平ごめん。だからこそ話のネタになるのが「三面記事」、そこに「男と女」が付け加われば最強です。

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そのあたりはさすが松本清張先生。
人間の、というよりは男女の、しょうもないけれど逃れられない心の機微をうま~~く描いていらっしゃいます。
三面記事×男と女、この組み合わせでおわかりになるかとおもいますが、この短編集、不倫の話が多数。時代は高度成長期直前とのことで、確かに昭和の空気むんむんですが、男女の話は昔も今も変わらんな~という印象です。
若い女とうっかり不倫しちゃったり、会長の愛人となった昔の彼女と再会し、出世欲もあわせて不倫したり、年上彼女との結婚を反対され別の結婚を決めたもののずるずる二股しちゃったり。そこにあるのはただただ「欲」。建前なんてどこにもなくて、生臭い。だけど、だからこそ、食い入るように読んでしまいます。最後の1編だけは新興宗教が絡み、毛色がちがいますが、描かれるものは変わりません。
「三面記事」だからもちろん、殺人も起こります。その根っこも当然、情。はずみだったり、邪魔になったり、欲だったり。しょうもないんです。ばかみたいなんです。だけど、おもしろいんです。
「わたし絶対こんなふうにならない」「俺ならもっとうまくやるわー」そんなふうに思ってる人ほど落ちやすい穴が5つ、ご用意されています。その、「うっかりすればここに落ちる」恐怖と「自分だけは大丈夫」の優越感が、ゴシップのスパイスなのかもしれませんね。
ちなみに角田光代さんも『三面記事小説』という作品を出していますが、わたしこれは怖くて震えました。できた妹に嫉妬して殺してしまう姉の話がおそろしすぎて。いや、わたしは妹のことは大好きですけどね。もののはずみというのは、好き嫌いのはかりでははかれず、わずかな揺れではじけてしまうものなのでしょう。


三面記事小説は、全部で5編。どれも読み応えたっぷり

万葉集からはじまる「たづたづし」冒頭。感傷にひたった男の独白は美しさも感じます。まあ、不倫なんですけどね