経営者・幹部、起業志望者必読! 日本的な企業の強さを引き出す実例付き処方箋

更新日:2011/10/6

ストーリーとしての競争戦略

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 東洋経済新報社
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:楠木建 価格:2,419円

※最新の価格はストアでご確認ください。

名著である、と素直に思います。ふとけんはビジネススクール入学前から経営書の類を読み漁っていたが、経営について「動的」視点での本書のアプローチは、(大変僭越ではありますが)新鮮かつ秀逸であり、経営者や経営企画を担う現場の人間にとって、納得度の高いものになっています。その意味では、腹落ちの非常にいい1冊だと言えるでしょう。

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たとえば有名なプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント理論のように、ある一瞬を切り取って意思決定のベースにするフレームワークは、実はリーズナブルなように見えて、経営や経営企画の現場においてはあまり使い物になりません。それは、企業のテクノロジーの進歩などによって競争環境は常に変化しており、その中で成長し、存在し続けていくということは、ある意味で人生のストーリーを思い描くことに近い作業だからかもしれません。

かつて経営はアートか、サイエンスかという議論が流行りましたが、個人的に、経営戦略はアートの要素が強いと感じています。戦略とは過去の数字ではなく、まだ誰も見たことがない将来の姿に向かうプロセスです。その意味で「見える化」よりも「話せる化」が大切であり、戦略をストーリーとして構想し語ることで、組織の人々に浸透・共有することを鼓舞するところにリーダーの役割の本質がある、という指摘も共感させられます。

また、2000ページ近いボリュームですが、ふとけんの場合、決して飽きることはありませんでした。スターバックス、マブチモーター、デル、サウスウエスト航空、アマゾン、アスクル、ガリバーインターナショナルなどの事例が紹介されており、米国企業のみならず、今日の日本企業をも研究対象としているところに、その考察力の高さと時代を捉えている感もあります。

なお本書は「一橋ビジネスレビュー」の連載を元に加筆・再構成されたものではありますが、~優れた戦略とは、思わず人に話したくなるような面白いストーリーである~というフレーズが、著者である一橋大学大学院の楠木建教授から発信されたことに、改めて日本の経営研究力の高さを感じました。

ただ、経営学を学んだ人であればわかりますが、そうでない人には知識的・概念的に「?」な用語も随所に登場しますので、ある程度、経営理論について学んだことがある人の方が、より高い共感を抱くことができそうです。

本書はPCだと10分間の立ち読みができ、全頁を見ることができます。まさに書店店頭で立ち読みしている感じが味わえますが、もちろん10分では読みきれませんので、ふとけんは「目次」をチェックすることをお勧めします

目次をみると、分析や考察だけではなく、ストーリーとしての競争戦略の考え方・作り方のエッセンスまで書かれています。学問のための学問ではなく、まさに実践経営のための学問としてのアプローチが行われており、おそらく読まれた方も、これまでの競争戦略をテーマとした経営書とは、一味違うことがお分かりいただけるはずです

用語の使い方の絶妙さにも脱帽します。この「ハワイか北極か」というのは、マイケル・ポーターのファイブフォース分析に触れる箇所で、第一の利益の源泉が「業界の競争構造」であり、「どこに住むか、が大切」という例えとして、登場するものです。従来の学術書とは全く異なる読みやすさや用語の使い方に、楠木先生のセンスを感じてしまいます

ところどころですが、図で示されるものもあります。アマゾンは本書でも紹介される企業ですが、「ビジネスモデル」と「戦略ストーリー」の違いを、図式を使いながら説明を試みています