結婚への決断。自由への選択。生への執着。賢いあなたを愚かに導く進化の力

2013/8/3

感性の限界 不合理性・不自由性・不条理性

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 講談社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:高橋昌一郎 価格:713円

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突然ですが、結婚相手の選択問題です。金持ちブサメンvs貧乏イケメン。あなたならどちらを選びますか? 角度を変えて、もうひとつ問題。レモンのスライスをかじるシーンを想像してください。思わず出てきた唾を飲み込むのと、空のコップに吐いた自分の唾を飲み込むのと、どちらが気持ち悪いですか?…。私たちの意思決定は、見た目と効用がこんがらがると、俄然、愚かな答えを導きだします。


感情vs勘定、私情vs市場、金銭vs琴線。ほとほと私たちは、情理と合理の相剋に、人生の選択を迫まれ苦悩する動物なのです。

本書は、その不合理な意思決定をする人間の不思議の現況を、行動経済学、認知科学、進化生物学、実存哲学と、最新の学問(論理)を引きながら、驚くほど楽しく学べます。

 

人生の墓場である結婚!? を選択した2人。その若者を祝って参会した学者たち。その合理の固まりである彼らの、感情に満ちた対話で、人間の本質が暴かれて行きます。

カーネマンの行動経済学、ドーキンスの生存機械論、カミュの形而上学的反抗。経済学、文学、心理学、生物学、哲学を網羅的にかじりたいエセ知識人(私;)にとって、ここ2、3年で最も楽しく読める書でした。

中でも、人の脳内に併存する二重過程モデルと、その背景にある利己的遺伝子と利他的個体の競合のくだりが圧巻。なぜ、愛を前に不合理の決断を繰り返し、わざわざ不自由な方へ人生を選択し、死に向かいつつ生を生き続ける不条理な生命なのか。私たち人類は、不自由な方向に進化することによって、生命を持続させてきた。そのことが、スッキリ楽しく語られます。

ダメ男を愛してしまうダメンズのあなた。いつもいまいちな道を選択するあなた。そして、死にものぐるいで生き続けるあなた。全ては、人類の進化のための不埒な行動だと、自分を褒めましょう! ただし、その自分は、「二重の自分」のもうひとつの自分なのですが…。

自分の中にある「遺伝子」と「肉体」の壮絶な生存の戦い。実感しながらお楽しみください。


本書は、結婚披露宴会場を舞台に、難解な哲学や科学が、軽やかな会話で紹介される。そのバラエティーある○○主義者同士の多事争論が面白い。哲学史家、科学史家、カント主義者、急進的フェミニスト、方法論的虚無主義者、ロマン主義者、イタリア国粋主義者、イタリア社会主義者、映像評論家、運動選手、行動主義者、イギリス文学者、イタリア文学者、実存主義者、ロマン主義者、社会心理学者、論理実証主義者、生理学者、形而上学者、精神分析医…。立場の“論理”と“感情”の対立形式こそ、本書の主題の具現である

歴史のそうそうたる哲学者や文学者や科学者の主張や言動の列挙も面白い。ライプニッツ、ニュートン、デカルト、カント、ショーペンハウアー、ウィトゲンシュタイン、ファイヤーベント、フッサール、イワン・パブロフ、ジョン・ワトソン、ダニエル・カーネマン

膝を打ったのは、第2章(意志の限界)の「利己的遺伝子と二重過程理論」。直感と合理のデュアル・システムを、なぜ、人間が持つに至ったか? 遺伝子の生存を優先するし、個体(肉体)の利他的犠牲を強いる「利己的遺伝子」と、その逆の「利己的個体」。その意思決定のデュアルシステムの競争的共生が背景だったのだ。人間の不合理性、不完全性、不自由性、不条理性は、遺伝子の生存戦略からみれば、完全、自由、条理な性特なのである
(C)高橋昌一郎/講談社