今月のプラチナ本 2013年9月号『はるひのの、はる』 加納朋子

今月のプラチナ本

2013/8/6

はるひのの、はる

ハード : 発売元 : 幻冬舎
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:加納朋子 価格:1,620円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『はるひのの、はる』 加納朋子

●あらすじ●

佐々良川のほとりにある広い原っぱ・はるひ野。幼いユウスケは、そこで「はるひ」という同じ歳頃の女の子と出会う。突然起こった不可解な出来事に「助けて欲しい」と頼まれたユウスケは、戸惑いながらも、なぜだか彼女の願いを叶えてあげたいと強く思う。それから四季の折々にユウスケの前に現れては、不思議なお願いをするはるひ。そしてその真実は、時を越えて次第に明かされていく─。佐々良の街、はるひ野をめぐる切なくも優しい連作ミステリー。『ささら さや』『てるてるあした』に続く「ささら」シリーズ最終章。

かのう・ともこ●1966年福岡県生まれ。92年「ななつのこ」で第3回鮎川哲也章を受賞し、作家デビュー。95年に「ガラスの麒麟」で第48回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)、2008年に『レインレイン・ボウ』で第1回京都水無月大賞を受賞。著書に『ささら さや』『てるてるあした』『モノレールねこ』『ぐるぐる猿と歌う鳥』『少年少女飛行倶楽部』『七人の敵がいる』、エッセイ『無菌病棟より愛をこめて』などがある。

幻冬舎 1575円
写真=首藤幹夫 

編集部寸評

 

人には選択する力がある

本当に、あたたかな本だった。時を越えて精緻に組み上げられたミステリーでありながら、システマティックなパズルのごとき冷たさはまったく感じられない。それはミステリーの核心にある〝謎〞に、人を大切に思う気持ちが込められているからだろう。そして誰かを大切に思うから、人は自らの選択で世界を良い方向に変えようとする。その圧倒的に前向きなエネルギーを受けて、読んでいてしばしば涙がこぼれた。だが本書の“前向きさ”は、能天気なものではない。良い選択をしなかったら、ひとつ選択を誤ったら。誰かに愛情をそそぐこともできたはずの人が、同じ手で害をなしてしまう。悪人が罪を犯すのではなく、誰もがその可能性を持っている。その怖さをしっかりと踏まえたうえで、それでも人には、世界を良い方向へ持っていく力があると示してくれる本だった。だからこそ、特殊な能力を持つ人物を描いているのに、すべての読者の胸を揺さぶる本になっている。

関口靖彦本誌編集長。本書は季節の描写も見事で、同じ町の四季折々の空気がまざまざと感じられました。また読後、カバーイラストを見直すとあらためて感慨深いです

 

すべては、佐々良川のほとりで

「あなたのことが、心配でたまらなかったの」――「はるひのの、なつ」の章、漫画家・塩山幸夫の愛妻・リカコさんの言葉だ。著者によって丹精に濃やかに織り上げられた本作の縦糸は、この言葉に代表される「大切な人への強烈な想い」。主人公・ユウスケが成長していく過程で関わるさまざまな人たちとのエピソードは四季折々の風情と個性的なキャラクターに彩られ、それが横糸となって物語はより鮮やかにそして厚みを増している。「はるひ」という謎の女の子への興味に引っ張られながら、最終章までたどり着くと、そこで明かされる事柄と心情に突き動かされ、読了後すぐに再読したい思いに駆られることだろう。すべては、あそこにあったのだ。ミステリーとしても、その完成度の高さにうならされる傑作。シリーズを通読すると、さらに感慨も深まる。ストーリーは全然違うが、今号でインタビューした伊坂幸太郎さんの『死神の浮力』ともやや読後感が重なった。

稲子美砂本号掲載の宮木あや子さんの「校閲ガール」。WEBでの連載化が決定しました。今秋から「ダ・ヴィンチ電子ナビ」にて開始予定です。ご期待ください

 

命の尊さを感じるミステリー

久しぶりの小説新刊が出て、すこし前の著者の体調不良を思えば、こんなに嬉しいことはない。加納さんは母であり、作家であり、妻である。『七人の敵がいる』では、その地に足のついた日常感が多くの女性読者の共感と支持を得た。私もそのうちの一人だ。今回のささらシリーズは“母の慈愛”が全面に押し出された傑作である。「ささら さや」で赤ちゃんだったユウスケはしっかりとした少年に育ち、私はその成長を親戚のおばちゃん気分でほほえましく読んだ。けれど、そこは加納作品、スイートと見せかけつつ、不穏な感じと、タイムトラベルものの宿命ともいえる“未来を変えるため過去を正確に修正せねばならない”という緊張感が全編を貫き、大きなうねりとなって、ラストですべての謎が明かされる。温かくやさしい本作にこめられた加納さんの“時を越えて子を思う母の気持ち”に涙が止まらなくなる。親子の関係がいかに尊いかを考えさせられる一冊。

岸本亜紀よりぬき版『もっともっと視(み)えるんです』伊藤三巳華さん、9日発売。つばさ文庫の『視(み)えるがうつる!? 地霊町ふしぎ探偵団』越水利江子ほか、は8日発売

 

命と出会いの不思議を思う

「人一人の命は、未来を大きく変える力を持っている」。最初の物語「はるひのの、はる」ではるひが語ったこの言葉が、読み進むごとに重みを持ち、色合いを変えていくような物語だった。「なつ」「あき」「ふゆ」とすっかり物語の面白さに引きこまれた後、「ふたたびはるひのの、はる」“前”と“後”を読んだとき、冒頭に引用した言葉がまた違う響きをもって胸に迫ってきた。“前”の世界でのユウスケとハナの出会いのシーンは、空気や情景も浮かぶようで、彼らが次第に距離を縮めていくまでの物語が丁寧に描かれていた。ここに収められたどのエピソードも実在感があって、どんな状況にも光と影があった。だから、すべてのパズルのピースがはまったとき、謎がとけた爽快感以上に切なさが残った。だけどふわっと温かい。いろんな人の思いが積み重なって、人は、私は、ここにくることができたのかもしれない。読後、思いを馳せてしまうファンタジックなミステリー。

服部美穂第2特集「女による女のための官能世界」で、エロメンカフェに潜入。一徹ファンのパワーに圧倒されました。エロメン一徹さんの官能グラビアは必見です!

 

幽けく愛おしい

お化けとコミュニケーションがとれる能力をもつユウスケは、不思議な少女・はるひに頼まれて、はるひ野界隈に住む人々の悪しき運命を変えてゆく。川辺のはるひ野は、まさに現世と幽世の境界だ。四季に起きる不思議な出来事は、物語が進むにつれて意味を成してゆく。さまざまな形の愛情、そして幽霊たち。作中にちりばめられた伏線や登場人物たちの物語が、ラストには丁寧に集約される。愛とは執着であり、エゴである。ただの優しさだけではない“愛”に溢れた物語。

似田貝大介お化けの季節がやってきました。今号は稲川淳二さんの特集を担当しました。怖いけれど優しい、稲川怪談を味わってください

 

紡がれる未来への希望の物語

本作は、幼いユウスケが「はるひ」という女の子と出逢う、「はる」の季節から動き出す。歳月を重ね、四季の移り変わりとともに、はるひ野で起こる不思議な物語。それぞれは独立しながらも、ユウスケの成長とともに次第に繋がっていく。偶然が必然となり、未来を創るのだとしたら――。人生の分岐点で立ち止まる登場人物たちの悲哀に触れながらも、紡がれる未来への希望に胸が熱くなった。本作だけでも楽しめるが、シリーズ2作と併せて読むと、より深く響いてくる。

重信裕加先月観劇した大泉洋さん、小林賢太郎さんのそれぞれの舞台が素晴らしく、演劇熱が復活。単行本『CUEのキセキ』重版しました!

 

勇気を出してがんばって!

はる、なつ、あき、ふゆ。季節で彩られた短編はどれもよかったけれど、個人的には美鳥とヨルの、ふゆの物語が心に残った。学校で居場所を見つけられず、違和感を抱えながら生きる中学生の女の子と、彼女の心のよりどころとなっている鷹のヨル。彼女ははるひと出会うことで、近い未来に起こりうる悲劇を防ぐため、大切なものを自ら手放すという決断を下す。勇気を出して殻を破った美鳥がたどり着いた「ね、ヨル。私は素敵な女の子なんだって」という言葉に拍手!

鎌野静華『社会人大学~』第5刷うれしい! 若林さんはライブを控えお忙しそうですが、担当は一足早く夏休み、セーシェル最高でした

 

繰り返し読みたくなる

「はる」「なつ」「あき」「ふゆ」そして「ふたたび」の「はる」の前後編、これら各章の響き合いが見事! SF的なつながりとその見せ方に高揚しました。それぞれの物語でつづられる謎と向き合いながら読んでいると、いつのまにかユウスケたちの世界全体が抱える秘密に絡めとられている。でもその秘密は、大切な人を想う気持ちから生まれたもの。とても温かい物語なのだ。一冊読みきったとき、各エピソードの意味に感じ入り、また読み返したくなることうけあいの作品。

岩橋真実メルマガ「ダ・ヴィンチレター」、青山裕企さん、岩井志麻子さん、佐藤文香さん、雪舟えまさん執筆中! 本誌P174に紹介有ります

 

つながって人は生きる

連作形式の巧みなミステリーでありながら、生死や時を超えてつながる人の縁や思いがあふれたあたたかな物語。とくに好きだったのが「なつ」の章。塩山幸夫という元マンガ家の再生の物語だが、彼を支え続けた妻の深い愛情と夫婦の形に勇気をもらった。他方で彼のありえたかもしれない別の可能性についても示唆されており、人が生きていくことの怖さと豊かさをありありと感じた。自分や、自分とともに生きてくれる人々の生をもっと大事にしたいと心から思った。

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著者「渾身」の優しいミステリー

幽霊の出てくる、佐々良という街が舞台の「ささら」シリーズ完結編。とても温かい物語だが、「ミステリーが原点」と語る著者の渾身の連作小説には、全編にわたり独立した謎が仕掛けられ、最終章では全てのパズルがあてはまり、物語が集約される。さらに、本書は季節ごとに章立てられているが、それが読み手の想像力に彩りを与え、登場人物の年月をも感じさせる。見事だ。個人的には〈なつ〉が好き。大切な人に会いたくなる、優しいミステリー・ファンタジー。

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きっかけのすばらしさ

ユウスケの前に登場する不思議な少女・はるひ。彼女のお手伝いをすることにより、少しずつ変わる未来。優しくあたたかな物語の謎を気持ち良く読み進めた。しかし、物語が進むにつれ、あってはいけなかった、おぞましい「今」を二人が変えたことがわかる。その大きな謎に成長したユウスケが挑むラストはすがすがしい。ちょっとしたきっかけが人生の大事なターニングポイントになると知った彼はこれからも自分の人生の謎とじっくり対峙するんだろう。

亀田早希『怪談実話NEXT』が9日発売! 暑い最中は、怪談アンソロジーでぜひ涼を感じてくださいませ。7人の渾身の怪談、怖いですよ)

 

 

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