「半沢直樹」シリーズの原型!? 池井戸潤が描く、銀行員サスペンス

小説・エッセイ

公開日:2013/8/8

シャイロックの子供たち

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 文藝春秋
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:池井戸潤 価格:679円

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夜景を生み出す一粒一粒の光は遅くまで働くサラリーマンの魂だ。そのことに気づいた時、「働きたくないなあ」と嘆息。どんな職業にだって、残業はつきものだし、安らぎはないのだろうと悟った。かつては、世間体上々で将来安泰と言われていた銀行員ですら不況の世の中では安定等は見込めないのだろう。安定といわれたからこそ耐えられたハードな仕事も現代では益々厳しいらしい。元々明るいイメージを抱いていたわけではないが、そのイメージ以上に、この物語の銀行員達の表情は硬いようだ。毎日突きつけられるノルマ。パワハラ上司。出世競争のための醜い足の引っ張り合い。ああ、私たちは結局どこにつとめようと企業の歯車のひとつになるしかないのか。そう思いながらも物語となると引き込まれてしまうから不思議だ。

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池井戸潤作『シャイロックの子供たち』は銀行員たちを登場人物とした連作短編小説だ。池井戸潤といえば「半沢直樹」シリーズのドラマ化で大ブレイクしているが、彼曰く本作は「ぼくの小説の書き方を決定づけた記念碑的な一冊」と語られている。傲慢な上司の存在や責任のなすりつけ合う様など「半沢直樹」に繋がるモチーフがたくさん詰まった作品といえるだろう。

舞台は東京第一銀行長原支店。何処にでもある銀行で、ある日100万円の紛失事件が起きた。女性行員の北川愛理に疑いがかかるが、愛理をかばっていた上司・西川雅博は失踪を遂げる。おまけに同僚の遠藤拓治は精神を病んでしまい銀行内は大混乱。一体事件の犯人は誰なのか。長原支店はどうなってしまうのか。群像劇の形式で、事件の裏に透ける行員たちの人間的葛藤をありありと描き出していく。

本小説は銀行という組織を通して、普通に働き、普通に暮らすことの困難さを鮮烈に描いている。憎らしい上司も実は高卒採用ということにコンプレックスを抱いているし、役立たずの同僚も家に帰れば温かい家庭があり、誰もがプライドのため、そして家族のために出世を夢見ている。たったそれだけのことなのだ。彼らは会社という制度に惑わされているだけ。信念に基づいた正しいはずの決断が他の誰かを傷つけ、窮地に追いやっていく。そして、ある者は遂に犯罪へと手を染めてしまう…。会社とは何なのか。働く意味とは何なのか。なんて不毛な毎日なんだろう。ビジネスマンは共感すること間違いなしの1冊だ。


この小説には“シャイロック”がいっぱいだ

100万円紛失事件で愛理が疑われることになってしまう

かばってくれた上司・西木に感謝。思わず熱いものがこみ上げる愛理

西木の突然の失踪に次第に疑問を抱き始める竹本

愛理は偽造書類を発見する…一体この事件の犯人は誰なのか? 西木は何処に行ってしまったのか?
(C)池井戸潤/文藝春愁