【映画上映中】河井道とフェラーズは何者なのか? 2人の視点から終戦を考える貴重な1冊

小説・エッセイ

更新日:2013/8/15

終戦のエンペラー 陛下をお救いなさいまし

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 集英社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:岡本嗣郎 価格:545円

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1945年8月15日。天皇陛下の玉音放送にてポツダム宣言の受け入れと無条件降伏を全国民が知った夏。これまでに第二次大戦を扱った本や映画は沢山みたつもりでしたが、こうした視点の本に出会ったのは初めてで、新鮮な驚きを禁じ得ません。

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連合国群最高司令官のマッカーサーが占領統治した終戦後の日本。あのエポックが現在の日本人の文化や思考に深く影響を残したであろうことは想像に難くありませんが、ではあの時代、どうやってマッカーサーが日本を統治しようとしたのか?をアメリカ側からとらえようとしたのが、この作品。

そこには、一般の日本人には知名度のない、アメリカ陸軍准将ボナーフェラーズという存在、そしてその彼に日本人として深く影響を与えたひとりの同時代の日本人女性、河井道の存在が。作者は非常に詳細に渡ってこの2人の役割を浮かび上がらせて行きます。マッカーサーが日本人とその文化の理解を深め、天皇の存在のあり方を改めて提示するに至るその統治の作業の中で、部下フェラーズの進言は非常に重要な役割を果たしてゆくのですが、そのフェラーズは晩年、河井道に対して「彼女が私を助けてくれた。彼女は知らないだろうが、マッカーサーの天皇に対する態度に、彼女は大きな影響を及ぼしたと思う」と回想しています。

その河井道とは誰なのか? 宗教家であり、熱心な教育家であり、恵泉女学園の創始者である女性。北海道での新渡戸稲造との出会い、津田塾大学創始者の津田梅子や当時の文学者らとの接点。そんな彼女の姿と思想を、生存者の証言を辿りながら丁寧に紐解いてゆきます。

西洋の文化と宗教を深く理解した河井道が、フェラーズという、逆に東洋の文化を尊敬し敬愛する人物と互いに影響を与えてゆく。その中で、日本文化の重要なキーポイントとなる象徴天皇制という形の源流に影響を与えて行く…そのドラマはこれまでの終戦や統治下日本の物語よりも非常にインパクトあり、感動的です。

天皇の戦争責任の有無、象徴天皇制の是否とは別の世界として、当時の外国人同士がどんな風にお互いを理解し、共存の道を探そうとしたのか、いろいろな視点から終戦を見るという点で、とても刺激的な1冊。おすすめです。


フェラーズは早くから日本人にとっての「天皇」をゴッドと訳すことに抵抗が

新渡戸稲造の「武士道」は外国人が持つ日本人のイメージに大きく影響した

ラフカディオ カーンの天皇観がフェラーズにひいてはマッカーサーに影響していた、という事実
(C)岡本嗣郎/集英社