終戦直前の日本、すべての人に当てはめた戦争の残酷さ

小説・エッセイ

2013/8/20

終わらざる夏 上

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 集英社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:浅田次郎 価格:545円

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8月ということもあって沢山の戦争関連の物語を読んでいますが、この浅田次郎作品は、スケールという点で、他から秀でているのではないでしょうか。舞台は終戦直前の日本。北海道の先、オホーツク海に浮かぶ占守島(シュムシュ)。ソ連と目と鼻の先のこの凍土に集まる人々の最後の日々をクライマックスに、物語はすべての階級のすべての人々にくまなくスポットを当て、戦争の残酷さを描き出して行きます。

45歳にもなるのに赤紙を送られて占守島に来た片岡は東京の編集者。外語大卒のその英語力を買われて最果ての地に送られるも秘密裏の作戦ゆえ、本人は知る由もなし。彼の上司になる軍曹の熊男も、指を前回の参戦で吹き飛ばされ、機関銃もまともに撃てない状態、しかも年老いた母を残して最果ての地へ。偽の診断を与えることで、若者を徴兵から救い出してきた東京の医師菊池も彼らの旅の友となる。最果ての地ゆえ、玉音放送の天皇のお声は届かず、敵がアメリカともソ連とも見当がつかないまま、終戦後に弾が行き交う戦場シーンは、涙を禁じ得ません。兵隊に取られる人。残される家族。死の宣告に等しい赤紙を仕事として送り続けなければならない軍人や最後の戦いに繰り出されたロシアの兵士たち。

登場人物の多さに最初は少々戸惑いますが、作家は巧みにすべての人々と状況をかき分けてゆきます。そこから湧いてくる感情は、戦争というのは誰のためにもならない、という無情さのみ。3巻に渡る人間の極限の状況を淡々と描いて行くその筆致は圧巻です。時間がある夏休みにじっくり読んで頂きたい1冊。


赤紙を送り続けた人物も、また苦悩する

鬼軍曹のカタカナの手紙を観ただけで胸が締め付けられてしまう

島にはアイヌでもロシア人でもない、クリル人も
(C)浅田次郎/集英社