サラリーマンはいかにすれば幸せになれるのか、近代学問で暴く本

公開日:2013/8/29

サラリーマンの悩みのほとんどにはすでに学問的な「答え」が出ている (マイナビ新書)

ハード : iPhone/iPad/Android 発売元 : マイナビ
ジャンル:ビジネス・社会・経済 購入元:Kindleストア
著者名:西内啓 価格:※ストアでご確認ください

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『サラリーマンの悩みのほとんどにはすでに学問的な「答え」が出ている』って、ものすごく挑発的なタイトルだと思いませんか? と思ったら著者の西内さんは今年25万部の大ヒットを飛ばした『統計学が最強の学問である』の著者でもいらっしゃり、俄然興味がわいてきました。

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まず、会社に勤めるサラリーマンが抱えがちな悩みといえば、自分の仕事や職場の人間関係、さらには勤める会社の業績あたりでしょうか。果たして本当に読んですっきりするのか、書かれているコンテンツは以下の6章です。

第1章「なぜ、いくらがんばっても給料が上がらないのか?」
第2章「なぜ、お金が貯まらないのか?」
第3章「どうすれば楽して出世できるのか?」
第4章「どうすれば職場の人間関係はうまくいくのか?」
第5章「どうすれば仕事はうまく回るのか?」
第6章「なぜ、いくら仕事をがんばっても家庭がうまくいかないのか?」
終章「それでも悩みのつきない日々をどう生きれば良いのか?」

もう、それがわかってたら世話ないよ!と言いたくなりそうな、ある意味根元的な願望のラインナップですよね。

気になる第1章では、まず、現在では労働者が不当に搾取されることはなく、もしもそうなら転職を考えよ。通常の会社は、がんばるほどひとりあたりの報われ方が少なくなるシステムである場合が多い。給料を上げるためには利益を出すための「新しいやり方」を考え、そのためには個人がきちんとした学問の知識を得ることが大切である、ということが、ノーベル経済学賞を受賞したロバート・ソローの経済成長モデルや、アメリカの経済学者ポール・ローマーの「内生的経済成長理論」などを引用して述べられています。

なるほど、その通りだとは思いますが、そうはいっても、現状打破のために提案されたオチをクリアするのが難しい、と現実の厳しさを痛感させられます。

そのようにして、いかにすれば稼いだお金をムダに失わず、天職を手に入れ、職場でリーダーシップを発揮して成果を上げ、幸せな家庭が築けるのかを、行動経済学やポジティブ心理学、組織行動論やプロジェクトマネジメントなど、近代の学問において現時点で判明している「答え」を学術的に示してくれます。

心理学をかじった筆者的には、終章が気になりました。お金と幸せがつながらない「幸福のパラドックス」について書かれた章です。

人は仕事上の地位やお金があり、家庭が円満だからといって、それで幸せに満たされるような単純なものではない、やっかいな性質をもっています。実際、この本にも「個人レベルでみた場合にも、貧困だと不幸だけど金持ちだからといってそれほど幸福でもない状況は、多くの国で調査した結果共通している」と書かれています。

幸福のカギを握るのは、ポジティブ心理学による「幸福の決定要因」と「3つの考え方」であるとのこと。このくだりを読むと、科学というより、なにかここだけ禅の思想に通じるようなものを感じます。

結局つまるところ、人は成功したから幸福になるのではなく、「幸福の決定要因」につながる3つの考え方を手に入れることで幸福を感じ取れるようになる。ゆえに仕事や家庭においても成功するのであると。最後の最後でポジティブ心理学を引用して、無理やり夢をもたせる終わり方をしているような気がしなくもありませんが、今、組織人として知っておいて損はない理論や学問を網羅している点で、おすすめの1冊です。


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