本好き必読! 現代の弥次喜多・スギさんフジさん道中記

小説・エッセイ

公開日:2013/9/3

東海道でしょう!

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 幻冬舎
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:杉江松恋 価格:743円

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9月の声を聞き、ようやくあの猛暑も一段落してくれそうな気配がないこともないこともないという今日この頃。今月は3連休も2回あるし、外での行楽には夏よりもよさそう。ということで、歩く歩く歩く旅行記、ためになる珍道中のご紹介。

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作者の杉江松恋・藤田香織の両氏はともに書評家。基本的に座業である。そんなふたりが、東海道ウォークに挑戦した。その距離492km。17回の行程に分け、1泊2日で30~50kmの距離を歩く。ストックついてひたすら歩く。写真撮りつつひたすら歩く。同行したのは編集者、そして主旨に賛同した仲間や家族。顔ぶれはそのときどきで変わるものの、だいたい7~8人の徒歩旅行だったようだ。

本書は東海道全宿場町及びその行程について、ふたりが交互に紹介したもの。読んでて楽しいのはふたりの個性の違いだ。杉江松恋パートでは、各所で杉江氏が見たこと感じたことにとどまらず、その地域の伝説や、その場所が舞台になった小説を紹介している。愛知県岡崎なら宮城谷昌光『新・三河物語』を、鈴鹿峠の描写が美しいのは坂口安吾、などなど。私はこの本を東海地方のラジオ番組で「自由研究の参考に」と紹介したほどだ。

一方藤田パートはまた毛色が違う。ふだんあまり歩くことをしない藤田さんは疲れたよお腹すいたよ寒いよ雨だよを繰り返す。けれど次第に彼女が「旅行巧者」になっていく過程が読みどころ。この松並木は昨日の並木と違うぞとか、このマンホールの絵柄は何だとか。そして国道1号を歩いているとき、ふと遠くを見るのだ。国道に並行して電車が走っている。その向こうには東名高速が見える。同じ場所を同じ方向に向って、歩く人・電車の人・車の人がいるということに気付くのだ。同じところに向かうのに、見える景色は違うだろう──そんなことをごく自然に読者にも感じさせてくれるのである。

グループでの徒歩旅行につきもののトラブルもある。歩くための装備に試行錯誤を繰り返すくだりもある。その気になれば(?)感動や教訓も得られるだろう。情報はふんだんに詰まっているし、旅行エッセイとしてもすこぶる面白い。けれど敢えて言いたい。そういう付加的なものもいいけれど、とりあえず近くを東海道が通っている人は、これを持って出かけてみよう。旅行記は読んで「行った気分になる」のに最適だが、むしろこれは「実際に行ってみたら面白そうだ」と思わせてくれる本なのだ。それって旅行記としてはサイコーじゃないか?

東海道は終わってしまった歴史じゃない。今もそこにある生活道路なのだから。


これだけ歩いた!

各宿場の扉には楽しい写真も