母が余命1週間!? 突然の宣告をされたら、あなたはどうする?

小説・エッセイ

公開日:2013/9/8

ぼくたちの家族

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 幻冬舎
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:早見和真 価格:585円

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真っ黒だったはずの母親の髪にはじめて1本の白髪を見つけた時、なぜだかキュッと胸が締め付けられる思いがした。当たり前のことなのに、誰にとっても親が老いていく姿程、理解できないものはないだろう。だから、少しの変化に気づきながらも思わず見ないふりをする。だが、もし、看過できない程、重篤な事態として、親の悲しい変化を目の当たりにしたらあなたはどうするだろうか。「年をとっただけだよ」と笑い飛ばせないほど、重大な事態としてあなたに迫ったとしたら、どうしようか。

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早見和真著「ぼくたちの家族」は著者の実話を元として描かれた物語だ。母が余命を宣告されたことを契機として家族がひとつになっていく姿を描き出した本作は、石井裕也監督、妻夫木聡主演で実写映画化も決定している。

舞台となるのは、2人の息子を持つ若菜家。母・玲子は最近物忘れが激しいのだという。年を取っただけだと笑い飛ばして誰も気に留めていなかったが、ある事件をきっかけに玲子の言動の異常さに気づき、家族全員で病院に連れていくことを決意。診断の結果は、末期の脳腫瘍だった。余命1週間と宣告され、呆然とする中、息子たちは、父が営む会社が倒産間近で、保証人である長男に1200万円の負債が降り掛かろうとしていること、母も消費者金融から多額の借金をしていたことを知る。錯乱状態となった母は家族にひた隠しにしてきた本音を吐露。2人の息子も押さえていた家族への不満を爆発させる…。家族とは何か。若菜家はどうなってしまうのか。母の病気をきっかけとして、若菜家ははじめて自分の本音をぶつけ合う。

家族とは、そう簡単に機能するものではない。就職し、結婚している生真面目な長男・浩介は玲子達とは一定の距離をとろうとするし、その妻・深雪は以前から姑に不信感を抱いていたために病気になっても他人事として関わろうとしない。父・克明は事業が上手くいかずに借金を抱えていても、プライドがあるからは破産できないでいるし、吞気な性格の次男・俊平は若菜家の財政状況など知らずに金を無心していた。玲子は機能していない家族の中心で様々な不満を抱えながら壊れていったのだろう。玲子を看病する、息子たちの思いは複雑だ。

「もしも人生をやり直せるとしたら、いつからやり直すのか」と父・克明が自問する場面が印象深い。過去を回想しながら、克明は、やはり玲子と出会い、浩介や俊平と生きた今の人生が一番であるということに気付かされる。「自分は玲子によってしか救われないし、子どもたちによってしか生かされない。」「家族がいなければ、あんなふうには頑張れなかった。」ようやく気づいた克明は息子たちに支えられながら、父親としての威厳を取り戻し、家族と向き合っていく。

近くにいるからこそ、大切なものは見えなくなってしまう。人は失いそうになるまでその大切さに気がつけない。身近な人がかかえる不安や問題をあなたはしっかり受け止めているだろうか。年代を問わず、読んでほしい1冊。


念願の孫が生まれることを知り、幸せな気分に浸る玲子

だが、玲子は病魔におかされていた

かつて「幸せ」についてこんな風に語っていた玲子のことを思い出す克明

クライマックスには感動すること間違いなし。あなたは家族と向き合えていますか?
(C)早見和真/幻冬舎