東京を誰よりも知り尽す男! 猪瀬直樹が描き出す東京の成り立ち!

小説・エッセイ

公開日:2013/9/13

土地の神話

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 小学館
ジャンル:ビジネス・社会・経済 購入元:BookLive!
著者名:猪瀬直樹 価格:767円

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2020年、東京オリンピック開催。招致に際しては滝川クリステルの「オ・モ・テ・ナ・シ」という演説ばかりもてはやされたが、猪瀬直樹の功績も忘れてはならない。「日本人があんなにもパッション溢れる演説をするとは思わなかった」と海外メディアが騒ぎ立てたように、猪瀬都知事の熱い演説は世界中を魅了した。あれ程の演説は相当な準備をせねばできるものではない。五輪招致は彼の努力の賜物といっても過言ではないだろう。そもそも彼は何者なのか。どれほど勉強してここまでこぎつけたのだろうか。

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猪瀬直樹は都知事になる前は作家として活動していたのをアナタはご存知だろうか。当日の演説からも感じられる、彼の”勉強家”ぶりを伺えるのが彼の著書『土地の神話』だ。これは猪瀬直樹が20年以上前に書いたノンフィクション。『ミカドの肖像』『欲望のメディア』と並んで「ミカド三部作」といわれる書籍2冊目に当たるもので、本書ではどのようにして東京が今日の東京へと生まれ変わっていったのか、その変化が描かれている。本を開いてまず驚かされるのが、内容の緻密さ。この1冊の本を書くに当たって彼はどれほど調査をしたのだろうか。本書は事細かな調査や取材によって東京の街の変化をあぶり出している。

かつて、東京の街を作ろうとした者達がいた。子どもの頃は誰もが、積み木を並べれば街ができると信じているが、現実はそう甘くはない。数多くの建物を立てようとも、人の流れがなければ、街にはならない。いかにして良い街を作れば良いのか、関東大震災後の東京は様々な人々の思惑が渦巻いた。

本書で中心的に描かれるのは、東急沿線の田園調布。この街に住むことは今でこそステータスだが、そもそものルーツはかの渋沢栄一の息子・秀雄だという。秀雄はイギリスのガーデンシティーに魅せられ、ただ見かけだけをマネした田園都市計画を押し進めた。イギリスではしっかりとした田園都市構想として成立していたものが、この国では道楽息子の趣味に矮小化してしまったと猪瀬は言う。しかし、この構想は、五島慶多を中心とした実業家によって欲望に満ちた不動産業へと変貌していく。住宅地と鉄道敷設を一体にした都市開発や大学の誘致…。人々はどのように田園調布ブランドをどう生み出していったのか。これをキッカケとして東急グループはどう発展したのか。そして、今日の東京はいかにして成り立ってきたのか。本書からは関東大震災後の東京の成り立ちを窺い知ることができる。

今の東京の街は、ありとあらゆる人々の利害関係や構想の苦闘の結果生まれたものだ。「満員電車に乗って通勤するというライフスタイルを僕たちはごくふつうに受け入れているが、これがきわめて特殊な日本的光景だ。」「東京が他のアジア諸都市と決定的に異なる発展の仕方をしたひとつの原因は、鉄道網の充実を選択したからにちがいない。」鉄道網に関する記述が多く見られるように、東京の街と電車の存在は切っても切り離せないものだろう。

25年も前から東京の街について徹底的に調べ、小説を書き上げていた猪瀬直樹。彼はこの歴史ある東京の街で、どんな東京オリンピックを実現させていくのか。この本から窺い知れる彼の“努力家ぶり”を見ると、かなり期待できるものになりそうで、今から胸が高鳴る。


当初、日本の田園都市計画は形だけのものだった

様々な資料から東京の変化をあぶり出している

東京の交通網の欠点にも触れている

郊外から電車で都心の会社へと通うライフスタイルが出来上がる