「自然人」からなるIOCとはなんぞや?

更新日:2013/9/23

IOC ― オリンピックを動かす巨大組織

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 新潮社
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:猪谷千春 価格:1,209円

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タイトルからして、ルポルタージュものかと期待していたら、著者はIOC委員を30年も務めた大ベテラン。本書は中からみた巨大組織の仕事の仕方、という内容です。

9月に東京が2020年のオリンピック開催地に決定し、否が応でもオリンピックという単語がこれからちまたに溢れてくるわけですが、確かに、開催を司るIOC委員会というのはどうにもつかみにくい団体という印象が拭えないのではないでしょうか。

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歴代の中でも独裁者のように君臨していたサラマンチ委員長や、現在の委員長もなにしろ一般人からはとっつきにくいタイプ。政治家のようにおべっかやポーズを取ることもしないし、みんななんだか国籍のないニュートラルな世界に行ったまま、戻ってこないような人々。猪谷氏は1956年の大会のスキー競技でのメダル保持者ということで、親近感も湧かなくもないのですが、委員会へ入るまでのその過程も元皇族からの誘いで始まったりして、のっけから一般人とは全く関係ない世界なのだということを垣間みます。

スポーツは世界中の人々の日常生活に欠かせないものだし、オリンピックの感動も全世界が共有するもの。なのにオリンピック委員会にこんなにも親近感が湧かないのはなぜなのだろうという感覚を、本書はよくわからせてくれるような気がします。多国籍の委員で構成される委員会自体に、カラーがない、というか、委員自体が出身国や競技を代表していないという点からしてもう、なかなか実態がつかみにくい。IOC委員の規定は「自然人」なのだそうで。ますます謎。

とはいえ、日頃国や大陸、文化の違いでモノを考えがちな先入観を一気に取り払ってオリンピックをとらえないと、この組織もわかりません。「スポーツを通じて心身を向上させ、さらには文化、国籍など様々な差異を超え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって互いを理解し合うことで、平和でよりよい世界の実現に貢献する」というのがオリンピック憲章なのだそう。

お金持ちのサロン的な集まりな面もあるかと思えば、みんな持ち出しで世界を周っていたり、国際色豊かといいながらやっぱりアジア勢はヨーロッパ勢に圧されていたり。中からしか捉えられない様々な軋轢や、日本としての課題など、少々固く読みづらいですが、希有な1冊です。


猪谷氏のオリンピック人生も偶然から始まった

IOCに商業主義を持ち込んだのはサラマンチ会長時代。さすがカタラン人です

IOC委員で民間企業に勤めるのは微妙な立場でしょう

委員も自国へのオリンピック招致に働きまくるんです