自分が軽薄だと思えるくらい笑える1冊

更新日:2013/9/30

ハダカの美奈子 ─ ビッグダディとの2年間、あたしの30年間

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 講談社
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:林下美奈子 価格:1,080円

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人はよそさまの不幸がたいそう好きだ。

落第、失恋、離婚、その他もろもろ向こう三軒両隣の出来事でないならば、「まあ、やーねえ」とか眉をひそめていいながら、どこか浮き立つ心が血管に満ちてくる。

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これはまあ、あの人よりわたしは幸せ、と自分の人生を慰める小市民的感情であるのだが、テレビ番組『痛快! ビッグダディ』を見たり、本書を読んだりしてると、こうも思えてくるのだ。

人は自分の不幸せもけっこう好きだ。

ビッグダディ」は(なにがビッグなのかよく分からないが)、ご存じ、テレビ朝日系で放送された大家族林下家の紆余曲折を追った、連続ドキュメンタリー(わたしはバラエティだと思うが)番組である。結婚や離婚が飛び交い、犬も仕方なく食うほど夫婦げんかがたびたび激しく展開され、引っ越しは山のようで、元妻が突如訪ねてきて居ついちゃったり、おいおいそんなのありかよと誰しもが半畳を投げたくなるありようだ。

その2人目の元妻、林下美奈子(ここまでくると5人目の隠し元妻がいてもわたしは驚かないが)が30年の人生と2年間の妻としての生活を書き下ろした1冊だ。

困ったことが次々起きている。少し考えろよ、とわたしはいいたい。主張と妥協を適度にブレンドして今を生きることはできないのか。

しかしそうではないのである。波乱のある(わたしは騒動だと考えるが)現在の方がおそらく生きやすいのだ。充足感がおそらくあるのである。考えていたらこうはいかない。

なにしろ美奈子氏の人生は荒波の連続なんである。父親のDV、高校時代の非行(わたしは飛行と呼びたい)、若くして結婚すればまたまた旦那のDV。読んでいて笑いましたね。とくにここで心機一転と決意した彼女が何をしたかといえば、入れ墨ときた。子供達のためと思いながら痛みに耐えたと告白するにいたっては面白すぎる。

だいたい美奈子氏と林下家には、何人子どもがいたのか読み終わって、巻末のリストを見てもいまだに把握しきれない。少子高齢化の時代に、国民がすべて林下になったら若者は増えるだろうが日本は滅亡するだろう。

“苦悩には甘い快楽がある”とは文豪ドストエフスキーの言葉であるが、なんか自分の不運の蜜を吸っている感覚をページから感じた。幸せになるより不幸せになる方が簡単だ。それで幸せと同じ充実感を感じられるなら、一生懸命生きている手応えを手に入れられるなら、誰だって逸脱した人生を歩むに決まってる。なにか特殊な官能装置を持っておられるのだろう。

自分が軽薄だと思えるくらい笑える1冊。


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