「うつ地獄」からどうやって生還するか。丸岡いずみさんの場合

小説・エッセイ

公開日:2013/10/13

仕事休んでうつ地獄に行ってきた

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 主婦と生活社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:丸岡いずみ 価格:864円

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丸岡いずみさんのこの本を始め、松本ハウスによる『統合失調症がやってきた』(ハウス加賀谷、松本キック/イースト・プレス)など、最近メンタルの病気に罹った当事者の方による著作が増えています。メンタルの病気、特に「うつ」の症状の現れ方には個人差があり、また当事者にしかわからないつらさや、周囲の人間はどのように寄り添えばよいのかを理解するには、難解な専門書よりも当事者本を読むほうが見えてきやすかったりします。

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丸岡さんは本書で、地方局のアイドルアナからキー局の看板ニュースキャスターとなり、ある日重度のうつに罹り、そこから生還して現在に至るまでを、素直に赤裸々に語り尽くしています。うつである間の壮絶な精神状態に、思わず言葉をなくします。

「うつは心の風邪である」というフレーズがあやまった認識であることは、すでにご存知の方も多いかと思われます。丸岡さんのケースの場合は、次のようなことが言えるのではないかと思われました。

・まじめで頑張ることに手を抜かない性格の方が、恒常的に強いストレスや過重労働に耐えていた
・累積疲労で疲弊していたその時期に、震災による惨事ストレスが重なった
・そのストレスのさなかも「ジャーナリストは闘う集団、強い人間だ」という考えから不眠不休で走り続けた
・「自分がうつになるなんて」というプライドや知識の不足から、薬を飲むことができずに悪化してしまった
・病気を受け入れて投薬治療を始め、「アクセルを弱める生き方」の大切さを再認識し、症状が改善された

震災以降、心理学の学会では、悲惨な現場で活動した災害救援者や被災地取材を行った放送ジャーナリストに「惨事ストレス」の心配があると報告されていました。丸岡さんの文章にも、取材の過程で凄惨な光景を1日中見続けるなど、感情が凍り付くような過酷な体験をされた描写がありました。強度のストレスが積み重なったときこそ、休んで自分をいたわることが大切なのですが、責任感からそれを後回しにされたことで、限界に達してしまったのではないでしょうか。

近年、専門家の間では、うつ病や統合失調症などの精神疾患は、強く大きなストレスのほか、脳の器質的な障害や脳内神経伝達物質の異常も原因であるとされており、処方された薬との相性がよければ、症状が改善されることが報告されています。

人は、自分で「大丈夫だ」と思っても、決して頑張りすぎてはいけないのです。もし、今自分のメンタルの状態がよくない、このままでは危険かも、と感じられる方は、この本の終章「丸岡的うつ病と上手につきあう心得」をおすすめします。うつから生還した先輩からのあたたかいメッセージが、なにか出口を教えてくれるかもしれません。


本書は丸岡さんの本編以外に、精神科医師による解説も収録

「眠れない」「食べられない」、このふたつが異変のシグナル

医師であり作家である鎌田さんとの特別対談では、メンタルの病気に対する理解がより深まります
(C)丸岡いずみ/主婦と生活社