過ぎ去ってみないと気づけない、そんな青春の輝きがここにある

公開日:2013/10/13

思春期シンドローム(1)

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:コミック 購入元:BookLive!
著者名:赤星トモ 価格:540円

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空き缶をぶちまけてしまったり、どうでも良い漫画の1ページに対して真剣に討論したり…本当になんでもない日常のひとコマに過ぎないと思っていたものが、過ぎ去った今思い返してみると妙に輝いて見える。

本作『思春期シンドローム』は、十人十色の高校生の思春期模様を切り取ったショート・オムニバスです。自覚のない輝きの真っ只中にいる学生達を、「かつては自分も思春期だった」という視点で見守るアラサー教師の花田の感慨には共感することしきり。いままさしく学生の人も、かつて思春期だった人も、幅広く楽しめる1冊です。

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この話の中には様々な学生が出てきますが、私がその中でも好きなのは夢を追う学生の話です。歌手になりたいとあっけらかんと友人たちに話す市川鳴海と、そんな彼女を冷めた目で見る天野奈津。奈津は小説家になるという夢を持っていて、けれどそれを彼女と同じく口に出そうとはしません。そういうことは軽々しく口に出すべきではない、むしろ簡単に人に言えるくらいだから市川が本気ではないのだろうと思っていました。けれど、歌手になるためにオーディションに応募したり、歌う時の振り付けの練習をしたりと、夢に向かって努力している姿を見せつけられます。

対して自分を省みた時、奈津は気づいてしまいます。頑張ったのに叶わなかった姿を人に見られることが嫌だから誰にも夢を話さなかったのだ、という「負けを前提」とした自分に。そして、怖じることなく夢を口に出し努力する市川に「絶対絶対負けたくない」と強烈に思う背中を見たときは、もう、「青春してるなぁ!」とついニヤっとしてしまいました。そしてそんな奈津を見かけた教師花田の、「不安と全能感の中で足掻く彼らは こんなにもこんなにも美しい」というモノローグに強く共感しました。

この2人の他にも、眩しい思春期真っ盛りな学生は様々でてきます。中学時代の中二病っぷりに追い詰められて大わらわな子や、恋に恋する子、大人になっても変わらないと無邪気に信じている子など、本当に十人十色。読んでいるうちに、「こんな子いたなぁ」と思うこともきっとあるはず。笑いアリ、心に突き刺さる一瞬あり。そんな眩しい青春オムニバスを、読書の秋にいかがでしょうか。


「あの頃の俺が気付かなかったように 彼らも気付いてないんだろうな。それぞれの青春が今 どれも等しく輝いている」当事者ではなくその輝きを見守る側になった花田の感慨には頷くことしきり

不言実行、自分は軽々しく夢を口にする人間とは違う。そんな風に思っていた奈津でしたが…

空き缶が散らばった! そんなことでぎゃんぎゃん怒れる学生のテンションの高さに、合コンでテンションを上げろと飲み潰され失敗した花田は「かなわねーよ」とぽつり。何でもないことが楽しい日々というのは実は結構貴重だったと後から気付くものなのです
(C)赤星トモ/講談社