犯人も探偵も被害者も、誰もいなくなる。“至高のミステリ”は伊達じゃない!

小説・エッセイ

公開日:2013/10/14

そして誰もいなくなった

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 早川書房
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:アガサクリスティー 価格:669円

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名作や傑作と呼ばれるには何が必要でしょうか。それは、魅力的なキャラクターでしょうか。あるいは、スキのないシナリオでしょうか。奇想天外で奇抜、ド肝を抜くような意外性かもしれません。緻密な設定、科学考証というのもありそうですね。まだまだありそうですが、こういった要素が1つでも傑出しているのが、ある意味最低条件なのでしょう。

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―――総じて、規格外であること。あるジャンルを出発点としつつも、何かの要素がそれを飛び出すような作品は、ジャンルの可能性を大きく切り拓きます。枠に収まりつつ破壊するというと、ちょっとややこしいですが、“分化の始祖”となることが名著と呼ばれる大きな要因なのかもしれませんね。

本作は正しく、そういった規格外の作品といえましょう!

舞台は兵隊島と呼ばれる孤島。U・N・オーエンと名乗る謎の人物に招待された、10人の男女が主人公です。それぞれに面識はなく、招待されたものの主人の姿もない…。そして、わけも分からぬ内に、ひとり、またひとりと命を落としていきます。なぜこの10人なのか。なぜ殺されるのか。次第に明らかになるのは10人に共通したとある罪でした。それは法では決して裁けない殺人です。それは偶然であり、ただ何もしないことで、たまたま他者を死に追いやっただけ。事件とも事故ともつかない事でした。その断罪が行われようというのです。

かの江戸川乱歩も短編・赤い部屋でこれをトリックとした殺人について言及していました。「法に触れない殺人」と。(厳密にいうと、“未必の故意”にあたるので、法に触れる可能性もあります)U・N・オーエンは、それを告発するのです。

主人公達は、加害者であり、オーエンを追う探偵にもなります。そして、被害者にも…。

最後には、全て、誰もいなくなる怪事件なのです。犯人も被害者も探偵も、誰も居なくなるのです。複雑を極める事件でありながら、タイトルのたった一言に全てが凝縮しています。

誰もいなくなるとはどういうことか。言いようのない緊張感に包まれた、謎の孤島でのミステリー。見事な筋立てと展開による、正に規格外の名作!!


兵隊島に掲げられた不気味な童謡

レコードから流れる、裁けぬ罪の告発

10人の視点が入り乱れ、物語は進みます
(C)青木久惠/アガサ・クリスティー/早川書房