遊郭に生きる女たちの栄枯盛衰を描く時代長編。貴方はどちらの花を選ぶ?

小説・エッセイ

2013/10/16

吉原十二月

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 幻冬舎
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:松井今朝子 価格:704円

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読み終えて、ほうっとため息をついた。豪華絢爛な遊郭の世界を小気味よい言い回しで綴る一大絵巻に、小説というより美術品の図録か何かを見た時のような、まさに恍惚の境地。…いや、いくら吉原が舞台の物語だからといって別にピンク色な意味ではないのだけれど。

著者の名を聞いて誰もが一番に思い出すのは、’07年に直木賞を受賞した『吉原手引草』だろう。“吉原もの”としてその続編にあたる今作の語り部は、町内きっての大妓楼・舞鶴屋の主人。かつて自分が育て上げた2人の花魁について、客人を相手に昔話をしている設定で、前作と比べてミステリー色はやや控えめ。その分、過酷な世界で生きる女たちの意地と心意気、全ては解り合えないからこそ惹かれ合う男女の妙を描くことに重点が置かれている。

幼名をあかねとみどり、大人になり衣小夜・胡蝶と名を変える2人は、同じ郭で寝食を共にする仲でありながら幼くして花魁の素質を見込まれたがゆえに、芸の出来に見た目の美しさにといつだって比べられ、また競わされて育つ。そうでなくても女同士というのは周りの目と隣りの芝生が気になって仕方がないのに、その上さらに店一番の稼ぎ頭=「お職」の座を取り合う仲となれば、持っている着物の数も馴染み客の品格も、ひとつだって相手より劣りたくない。こうして互いに切磋琢磨し、吉原一と評判の名妓に成長するが、見た目も性格もまるで正反対の2人にはそれぞれに波乱が待ち受けていて…。

吉原が舞台で花魁が主人公と言われたらつい「不遇な生い立ちにも負けず度重なる困難を機転で乗り越え、健気な努力が報われてハッピーエンド大団円」みたいな筋書きを想像してしまうけれど、そんな一筋縄ではいかないのがやっぱり松井今朝子。「え、そういう方向もありなの」って感じのなかなか想定外なラストなのだが、それを物語の舞台背景や登場人物の心理を緻密に描写し、伏線を幾重にも張り巡らせておくことで、するっと成立させてしまうのだ。良い意味で、並外れた文章力がないと書けない物語だと思う。

12の各章にその季節ならではの行事や風景描写をふんだんに盛り込み、花魁という名の花の一生を1年の時の流れになぞらえた構成はまたしてもお見事。艶かしい隠喩にどきどき、口語の体裁が生む軽妙なリズムも心地よく、読みはじめから面白さを確信してついつい口もとが緩む。義理と人情、一途な恋心、四季のうつろい、鮮やかな謎解きとその醍醐味を全部堪能できる完成度の高さは、時代小説を読み慣れた人はもちろん、初めて読む人にも自信を持っておすすめしたい。


鮮やかかつ繊細な情景描写に、浮世絵でも眺めているような気分

物語の合間に差し挟まれる「吉原トリビア」がまた面白い

辛い日々の勤めの支えとなってくれるのは、嘘偽りのない恋心

物語の後半、舞鶴屋を窮地に貶める事件が。その時2人の花魁は