一俳優、五十に思う。何かを始める時は「何をやったら喜ばれるか」を考える

小説・エッセイ

公開日:2013/10/31

群れずに生きる

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : KADOKAWA / 角川書店
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:筧利夫 価格:842円

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舞台、映画、ドラマで活躍する俳優・筧利夫さん。「今、僕は五十歳だ。この本が出る頃には五十一歳になっている」と本書は始まる。50という年齢にこだわりが? 実際は、年齢との向き合い方はとてもおおらか。とりあえずひとつの節目というそれほど重くない意味合いで「50歳」をイントロに、俳優・筧利夫のこれまでこれからのメッセージ。

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内容はバラエティ。芝居のこと、稽古のこと、俳優の人間関係、舞台と映像の違い、俳優・筧利夫(オン)と自分(オフ)の線引き・重なり具合など、俳優を仕事にするいろいろを、「風邪をひいたら仕事を休むべきか」と誰でも思い当たる日常的な問答や、ときに「成功とは何か?」と俗っぽく、また「八百屋と俳優は似ている」と若い日のバイト経験からのたとえなどをまじえ、多彩な語り口で楽しませてくれる。

とくに、「物事が頭から入って身体に浸透するまでには3か月かかる」という経験からの持論をもとに、「セリフが身体に浸透していく(中略)その段階になる」と、「あっ、自由になった!」とセリフ、動作のあらゆる支配から解放されたように振る舞えるようになるという部分は、ハードな稽古の果てだけに到達できる俳優のほんとうの姿に触れたようでとても印象的(第2章)。その他、家族のことや食生活・健康法、少林寺拳法のこと、コンビニの募金箱の役立て方、伊勢神宮「125社参り」にお酒の話と、その話題の豊富さに、人として、俳優としての幅を感じさせてくれる。

これらに通底する気持ちの持ち方が、タイトルの『群れずに生きる』なのだろう。文中に「群れずに生きる」とは具体的にどのような意味なのか、俳優という仕事をスポーツのチームプレーとプレーヤーにたとえて触れている部分(「集団行動」と「団体競技」、2章)があるだけで、それ以上に述べた部分はない。少し残念な気もするが、それはさておき、著者はパソコンを自作するという。周囲を見ると、この種の人たちには、できることならなんでも一から自分でやってみないと気のすまない性格の人が多い。

「すべて仕事はサービス業」と著者はいう。「これから何かを始めるとするなら、儲けるよりも“何をやったら喜ばれるか”から考え」、そして「“映像でこういう作品を撮りたい”という気持ちが出てきたとすれば、監督をやりたいと考えることがあるかもしれない」とも書いている(5章)。いつか、作・監督・主役・筧利夫という映画や芝居で、喜ばせてくれる日が来るかもしれない。


目次から

著者は「集団行動」は苦手という。俳優は「集団行動」ではなく「団体競技」。個の力の集まり。ゆえに「群れずに生きる」(2章から)

「自分のケツは自分で叩くしかない。誰かがなんとかしてくれると考えている限りは、何も変わっていかない」。参考になるメッセージも多い(3章から)

これから何かを始めるなら、儲けることよりも、「何をやったら喜ばれるか」から考える(5章から)
(C)筧利夫/角川書店